四日市市出身の映画監督、瀬木直貴さん(55)がこのほど、日本三大酒処の一つに数えられる広島県東広島市の西条を舞台に、幻の日本酒造りと恋を巡る物語を描いた映画「恋のしずく」を制作した。同作品は現在、東員町長深のイオンシネマ東員で上映している。公開が始まった作品の制作秘話を瀬木監督に聞いた。【映画「恋のしずく」について語る瀬木直貴監督=四日市市新正5のYOUよっかいち事務所で】

 

――「恋のしずく」はどんな作品ですか

瀬木監督 東京の農大に通う日本酒嫌いの詩織(川栄李奈さん)が、意に反して老舗の酒蔵へ実習に行くことになってしまったことから物語が始まります。日本酒造りを通じて、誰でも抱えている恋愛や進路の悩み、事業継承、親子の確執を描きました。ほっこりと楽しんで頂ける作品です。

――日本酒を題材にしたのはなぜでしょうか

 瀬木監督 映画を通して和食の世界を掘り下げてみたく、冠婚葬祭や私たちの喜怒哀楽のそばにある「日本酒」を選びました。西条は現役の酒蔵が駅前に7軒も密集し、酒蔵の白壁と人々の生活の営みが一体となっている風景に心を動かされました。

――撮影で苦労したことは

 瀬木監督 日本酒の造り方を知らない人にもイメージとしてある程度分かるように、人間の物語に組み込んでいくのが難しかったですね。そのかいあって、海外の映画祭では「ワインとは作り方が違うんだ」という反響もありました。

――実際にお酒を飲んで撮影したのですか?

 瀬木監督 いえいえ、撮影中はノンアルコールです。酒を再現するため、スポーツ飲料や炭酸水、粘度を高めるコラーゲンなども使っています。酒造りの季節は10人以上が住み込みで作業するという距離感を出すため、杜氏(ルビ・とうじ)役の小市慢太郎さんや川栄さんなど6人が、毎晩〝自主トレ〟と称して酒盛りをしていました。

――映画の中で日本酒と一緒に、とっくりやぐい呑みなどの焼き物も出てきます。四日市にも酒蔵や萬古焼がありますが、その影響はあったのでしょうか 

瀬木監督 あるかも知れないですね。僕は無意識でやっていて、それを評論家の方たちが「三重で育ってきたゆえに、こういう色彩感覚を持っているのではないか」と話していました。

――映画初主演となる川栄さんの印象はいかがでしたか

 瀬木監督 演出家や監督仲間では、以前から芝居に定評がありました。普段は人見知りでおとなしいのですが、集中力が素晴らしく、芝居が始まると一変するんです。冒頭のあみだくじをたどるシーンはアドリブです。彼女の憑依(ひょうい)型の芝居は、見ていて楽しかったです。

 

――今年2月に亡くなった俳優・大杉漣さんの遺作となりましたが

 瀬木監督 芝居には厳しい人。息子役の小野塚勇人君と対立している設定でしたが、打ち合わせもせず、顔も合わせないので小野塚君が戸惑っていました。それは、カメラの前での芝居を良くするために、あえて仲良くしなかったのです。

 一方で、人としては非常に大きくて、場の空気を他の役者が演じやすいよう誘導してくれました。待ち時間によく散歩に出掛けていて、町の風景や空気を蔵元という役に少しでも採り入れようとしていたそうです。最後には「それが本当に役に立ったかどうか分からないんだよね」と言うところに、人間の大きさを感じました。

――最後に、読者へ向けてメッセージをお願いします

 瀬木監督 私にとって16作品目ですが、映画評論家の方々からは、「今までで一番良い」と評価してもらっていて、お酒を飲めない世代にも見てもらえる映画になったと思っています。登場人物が皆、前を向いているので、一歩踏み出す後押しができたらうれしいです。

 実は、エグゼクティブプロデューサーの中西康治君は、南中学校、四日市高校時代の2歳下の後輩です。今回初めて一緒に仕事をして、同郷で同じ時代の空気を吸って生きてきた者同士、すごくやりやすかった。映画から感じるチームワークの良さは、三重県人の良さが出たのではないかと思います。

 ぜひご覧いただきたいな、と思います。