未来の米作りは、四日市で議論 成功の鍵は大規模化、耕作農地の集約には壁も

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【工業都市四日市にあって、ICT活用の最新農機を使い未来の米作りに挑む=うつべ農園で】

 米の値上がりと備蓄米の放出が、米への注目度を上げている。米離れだったはずの日本で、一転、将来の米作りまでが議論される状態だ。工業都市でありながら、実は野菜や茶を含む都市近郊型農業も盛んな四日市。AIを活用し、暑さに強い新品種に挑むなど、未来の米作りへの挑戦も進んでいる。成功の鍵は農地の集約による大規模化とされるが、課題もある。

 「待ちに待った」。6月19日、イオン四日市北で政府備蓄米(5キロ入り)が200袋以上、店頭に並んだ。これだけの量の販売は市内で初めて。備蓄米放出が四日市でも身近な出来事になった。

 その3日前、市議会では市議の上麻理さんが将来の四日市の米作り市に問いかけた。上さんは市内で上位の大規模農業を進める「株式会社うつべ農園」の創業者。市議になるにあたって役職を離れたが、約15年の経験をもつ米作りの専門家だ。

〇コロナからの回復、調整追い付かず

 上さんは、米高騰の理由を生産者の立場で解説した。新型コロナの感染拡大で2020年度は外食産業や旅行業界が打撃を受け、米の需要はがくんと落ちた。23年度に5類扱いになり、消費回復が始まったが、農家はなお、水稲の作付面積を増やさなかった。まだ米は売れないと思ったからだ。

 24年度、外国人観光客が急増し、米の需要は上がったが、なお、作付面積は23年度とさほど変わらなかった。判断が間に合わなかったのだ。それが今年にかけての米不足を招いたという。

 各地のJA(農協)は集荷で優位に立つため、「概算金」と呼ばれる購入予定価格を引き上げた。民間の米の卸業者も米が足りていない状況を見て、JAより高い買取価格を農家に提示、米はさらに高くなる構図となった。卸業者はコロナ当時、赤字覚悟で米を買って農家を支援したといい、そのマイナス分を挽回できるととらえた側面もあったらしい。

〇未来の米作りへ四日市でも挑戦進む

 采女町の「うつべ農園」を訪ねた。そこで出会った上大将(まさる)さんは20代の社員で、将来の農業を担う若者だ。勤務は3年ほどになるが、「工夫したことが結果になることが面白い」と、今は米作りなど農業が大好きだという。

 農園が管理する鹿間町の田んぼでは「にじのきらめき」が青々と育っていた。葉が長く伸びて日傘のように稲穂を守るため、とても暑さに強い。日本人のコシヒカリ信仰は根強いが、地球温暖化で暑さが進むのは必至で、これからの米として取り組んでいる。猛暑に強い品種では、三重県生まれの「結びの神」「なついろ」などもあるという。

暑さに強い「にじのきらめき」が青々と育っていた

 農園では、AIで天気予報を分析し、田植え、消毒、収穫などの時期を判断している。苗づくりをせず、田んぼに直に種まきをし、追肥などはドローンがする。ICT(情報通信技術)を活用するトラクターは自動操縦。こうした作業の省力化も図られ、米作りは若い人にも魅力的な仕事になっている。最新機器を導入するにはお金もかかるが、耕作の大規模化が進めば、全体としてコスト削減になり、収益は確実に出るのだという。

〇農地の集約と耕地整理が大規模化への鍵 

 議会での質疑で、上さんは「国の政策もあるが、地域の農業はその地域で自ら考えていく必要がある」と指摘した。市も基本的には大規模農業化には賛成するが、その決め手となる農地の集約に課題があると上さんは指摘する。

 農家の高齢化や後継者がいないといった理由で耕作放棄になっても、飛び地のようになっていると集約化は難しい。耕地整理でまとめることが必要なのだが、四日市では大正時代のままになっている地域もあって、鈴鹿市や松阪市などと比べ遅れているという。

 市街化調整区域の農業振興地に、いつの間にかソーラーパネルや工場などの資材置き場ができる例もあり、転用へのチェックが必要だ。外国人が農地を買おうとして農業委員会で議論になったこともある。「人に貸したくない」という土地への個人的な思いも根強く残っている。

 「日本の農業は、本当はそれぞれが競争して、全体のレベルが上がっていってほしい。いつかは海外も意識しなくてはいけないから」。大将さんには、未来の米作りはそんなふうに見えている。

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