人の和を築いていきたい 表千家 前川温子さん(82)

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【茶を点てる前川さん=四日市市三栄町】

 祖母の代から続く茶道表千家の指導者成瀬家の三代目、四日市市三栄町の前川温子さん(82)。自宅の茶室には大勢の人が訪れ、日本文化に触れ、人の和が生まれている。

 小学生のころから茶道を嗜み、母の由里さんの手伝いをし、茶席を支えてきた。2005年に母が他界し、自宅の教室や高校茶道部の指導など全てを引き継いだ。由里さんは四日市市の茶室泗翠庵の創設の功労者で、同市文化功労章を受賞し、前川さんも2019年に受賞した。「四日市茶道教授連盟」の表千家代表として、他の流派の指導者と交流し、泗水庵のイベントでも重要な働きを担う。

 茶道は伝統も重んじ、硬苦しいと感じる人もいる。前川さんは茶道の所作や、人や茶道具への敬意や思いやり、おもてなしの心を伝えるが、お茶を気楽に楽しんでほしいと考える。稽古の合間には笑い声が響き、癒しの空間となっている。夜の稽古は男性も多く、10年以上通う30代の男性は、着物を着て稽古する。前川さんの温かい雰囲気に心が和み、人生相談をすることもあるそう。「茶室に自分の居場所を見つけました」と話す。

 真夏以外は着物を着て稽古する前川さん。正座の姿勢から、茶碗を両手に持ち、床に手をつかずに立ち上がる。高齢者には厳しい動きだが、続けることで足腰が鍛えられる。抹茶のカテキン効果もあり、風邪をひくこともなく、体調不良で教室を休んだことは一度もない。夫が亡くなり一人暮らしだが、自宅の茶室に毎日人が訪れ賑やかに過ごす。「一期一会の出会いを大切にし、心を通わせ、人の和を築いていきたい」と笑顔で語った。


茶室の様子