女性理容師の「床屋さん」が開店、四日市で技を磨く、難聴も仕事で克服

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【自宅の一部を改装した店内と、主人の村居彩香さん=三重県鈴鹿市竹野2丁目】

 女性理容師の「床屋さん」が、この春、店を開いた。約15年間、三重県四日市市の理容店で技術を勉強し、独立した。最近は、理容師より美容師をめざす人の方が多く、女性理容師が自らの店を開くのは相当に珍しい。小さい時からの難聴で、人と話をすることに苦手意識もあったが、仕事をする中で克服し、今はお客様との会話が楽しいという。

 四日市市沖の島町で4代続く川口理容店に1人の女性が弟子入りした。化粧っけのない顔を見て、店主で四日市理容師会の会長でもある川口明宏さん(65)は「男の子かと思った」という。それが、今回、店を開いた村居彩香さん(36)。20歳のころだった。

 子どもの時に両耳が難聴だと分かった。普通の話し方だと、極端に顔を近づけないと、よく聞こえないという。補聴器を着けたが、自然と、人と会話をするのを避けるようになった。

 高校卒業後、「人と話さなくていいから」と思い、鈴鹿市内の自動車部品工場で働いた。2年ほど働いた時、親戚に紹介された年配の女性理容師に会い、「手に技術があれば、年齢を重ねても働けるんだ」と思った。川口理容店はその女性に紹介してもらった。

○技術身につくのが楽しい

 最初は四日市市内の寮に住み込んで、朝から夜まで店で先輩の仕事ぶりを見て働いた。仕事後に自分の練習もすると、帰りが午後10時ごろになることも珍しくない。「遅くまで働いて大丈夫?」と親は心配したが、苦にはならなかった。技術が身についていくことが楽しかったという。

 一緒に寮にいた2年先輩の女性が、村居さんとは正反対で、おしゃれに関心があり、人と話すのが上手だった。あこがれの先輩になり、村居さんの化粧や身だしなみへの意識も高くなった。

○話せば教えてもらえる

 補聴器があっても、話される角度によってはよく聞こえない。「何度も聞き直すのはお客様に申し訳ない」と話すのをためらい、何を話そうかと考えているうちに時間が流れ、シーンとしてしまうこともあった。

 それでも、「補聴器を着けています」と最初から話せば理解してくれるお客様が多いことが分かってきた。「自分から話をすれば、私の仕事への感想や、意見を言ってもらえ、いろんなことを教えてもらえると思えるようになりました」と村居さんはふりかえる。

 指導してきた川口さんは、「約30年間、この仕事をしているが、実家が理容店ならまだしも、女性が一から自分で店を開くのは本当に大変で、このあたりでも聞いたことがありません。耳のこともあったが、本当によくがんばったと思います」と太鼓判を押す。昨年12月には、理容師の四日市市優秀技能者としても名前が発表された。

○店の名前は「彩(いろどり)理容館」

 村居さんの店の名は、本人の名前から一文字を取って「彩(いろどり)理容館」という。母が考えてくれた。鈴鹿市竹野2丁目の実家の一部を改装して、1人分だけの席と鏡、洗髪台のある、白い内装が基調の店だ。

店の正面で

 予約制で、客は1人。女性客を意識してのことという。村居さんは剃刀で顔そりができることが理容師の武器だと思っている。最近、女性の顔そりへの関心が高くなっており、これならマンツーマンで落ち着き、女性客も安心して店に来てもらえるのではと思ったという。

 店のインスタグラムに、最近、こんな言葉を書いた。「まだまだお客さんは少ないですが、近所の方や前の勤め先のお客さん、紹介で来てくれた方、ありがとうございます。『居心地がいい』『頑張ってほしい』と言ってもらえることがとても励みになっています」。

 「あの店の顔そりは本当に気持ちがいい、と言われるような、町の人に愛される店にしていきたい」と村居さんは話している。彩理容館の予約は電話059-315-4849へ。

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