会社の主力は高齢者、定年なし、後期高齢者も活躍、四日市の警備保障「株式会社くき」

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【警備の現場を回り、隊員に声をかけるのが九鬼晃文社長の日課だ=四日市市浜田町】

 65歳以上の高齢者が会社の主力で、75歳以上の後期高齢者も活躍している会社が三重県四日市市にある。定年制はなく、会社から「やめてくれ」と言われることもない。様々な人生経験をもち、無駄な出世意識がない高齢者ならではの「ゆるさ」もあって、仕事がうまく回るのだという。

 「株式会社くき」。本社は川原町で、統括本部を近鉄四日市駅西の西浦1丁目に置いている。警備会社なので社員のことは「隊員」と呼ぶ。建設現場の入り口などを見守る交通雑踏警備と、倉庫などの施設警備がおもな仕事で、40歳から77歳まで38人の隊員は、65歳以上が28人で、うち75歳以上が6人。大規模な工事で注目される中央通りの大手ゼネコンの仕事場の警備も担っている。

 今年1月、高齢者雇用の分野で雇用優良事業所に選ばれ、四日市市から表彰された。65歳以上の高齢者雇用率は72.4%で、21人以上を常用する三重県内の中小企業3000数社の平均的な数字8.13%をはるかに上回る。高齢化社会の進展で、定年制の年齢を引き上げ、65歳以上や70歳以上でも継続して働ける制度を採り入れる会社は増えているが、これだけ高齢者が主戦力になっていることは先進的だという。

○高齢者に働きやすい環境

 鈴鹿市内の物流センターを担当している林直樹さん(75)は、「くき」で8年以上働いている。もとは大手自動車会社に勤務していた。「同じ担当の仲間も64歳以上で、世代が近いので話が合う。冗談も言える雰囲気がよく、気に入っている」と言う。事前に都合が悪い日を伝えれば会社でシフトを融通してくれる安心感もある。「年だから、時には節々が痛むこともあるが、あと2~3年は働きたいですね」と話す。

 雨風が関係ない施設警備の仕事は、社会が抱く警備のイメージに比べて体力的には楽だそうで、高齢者にも合う。「年金暮らしだが、元気なので働きたい」とハローワークから応募してくる人たちには、大企業を定年した人や元教師も。「定年前とは違う仕事をしてみたい」という人もいる。

 「平日2~3日だけ働きたい」「通院の日は避けて」など、それぞれの希望を聞いて勤務シフトを組んでいるが、不思議に仕事に穴が開かない。急な病気で休む人が出ても、「いいよ。やるよ」と、だれかが代打を務め、2006年10月の会社設立以来、困ったことは一度も起きていないという。「そんな積み重ねで、年配の人が主力で回してくれる会社になった」と社長の九鬼晃文さん(68)は話す。

○癒しの効果も?

 こんなこともあった。30歳ほどの男性が勤めていたことがある。いじめで引きこもりになり、生活保護を受けていた。会社に来て少しすると、年配の先輩のおおらかさに会話もはずみ、正確が明るくなった。1年半ほど勤めたあと、キャリアアップをめざして男性は会社を巣立ったという。

 「本当は、若い人にも、もっと来てほしい。バリバリ働きたい人には、その希望に合う仕事もちゃんとありますから」

○業界の環境を変えたい

 九鬼さんは「警備業界は環境を変えないといけない」と話す。15年ほど前まで、警備業への信頼は決して高いとは言えなかった。「無宿者が寄ってくる業界、などともいわれた」と言う。業界内での仕事の取り合いも激しく、ダンピングで仕事の単価を自ら下げて、従業員の待遇が上がらないという、自分で自分の首を絞めるような状態だったという。

 九鬼さんは、四日市市と菰野町の8社に声をかけ、独自に北勢警備業協同組合を設立。「フェアな仕事で、従業員の待遇改善などに努力し、この業界全体の環境をよくしていかなければいけない。組合をつくって6~7年がたち、効果が出てきたところです」と話している。

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