志摩観光ホテルの樋口宏江総料理長が特別講義、四日市のユマニテク調理製菓専門学校

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【調理をしながら様々なことを学生に語る志摩観光ホテルの樋口宏江総料理長=四日市市浜田町】

 三重県伊勢志摩の美食を発信する志摩観光ホテルの樋口宏江総料理長が10月16日、四日市市のユマニテク調理製菓専門学校で西洋料理の特別実習の講師を務めた。憧れの存在ともいえる樋口さんに目の前で調理に向かう姿勢を教えてもらい、約30人の学生たちは4時間余り、真剣にメモを取りながら講義に聴き入っていた。

 実習は午前11時に始まり、休憩1時間を挟んで午後4時半を少し回るまで続いた。この間、樋口さんは食材の扱い方や伊勢志摩の漁業が温暖化の中でどんな状況にあるかなど、多くのことを学生に語って聞かせた。実習の間、ずっと手は動き続け、休むことなく語り続けたといって過言でない。

鮑や伊勢海老も使い4時間余りで3品つくる

 学生たちは毎年春にテーブルマナー教室でホテルを訪問しており、厨房見学もしているが、樋口さんが調理をする姿を見るのは初めてだ。樋口さんは年1回、同校での実習を引き受けており、この日は鮑のクリームスープ、伊勢海老のヴィルロワ風、鹿肉のリゾットの3品を調理した。

 伊勢海老など高価な素材の扱い方を知ってもらうことも狙いだが、本来なら、とても長い時間をかけて下準備をする料理もあり、タマネギなど野菜をみじん切りにすることから始まる仕事の基本の大切さも知ってほしいという。

食材の細やかな扱い方などを説明する樋口宏江さん

 実習に参加した総合調理学科2年の西野悦子さんは、「食材の扱い方がとても丁寧で、急いでいるはずなのにとても高貴な雰囲気でした。鹿の肉は全く獣臭さがなく、鮑のスープはジャガイモと合って、伊勢海老もプリプリ。どれも最高でした。地元の食材を大事にされていることを聞き、私も将来は地元の食材をしっかり提供できるようにしたいと思いました」と話した。

出来上がったこの日の3品

初の著書を出版、これからの志摩観光ホテルの料理を綴る

 樋口さんは今年の春、自身初の著書「自然への想いを繋ぐ皿『海の幸フランス料理』の伝統と未来」を柴田書店から刊行した。樋口さんは、伊勢志摩の海の幸の魅力を引き出した第5代総料理長の高橋忠之氏、樋口さんが「料理の技術を教えてもらった」と話す第6代総料理長の宮崎英男氏(現名誉料理長)の跡を継いだが、海の幸はもちろん、新しい素材にも注目した次の時代へと繋ぐ料理を確立しようとしており、そこに込められた気持ちを綴っている。

樋口さんの初の著書。写真も美しい

 2014年から第7代総料理長を務めているが、本の執筆を勧められ、今回の著書にまとめたという。美しい料理の写真やレジピも掲載されており、樋口さんは「どなたでも、その通りにつくっていただけます」とほほ笑んでいる。料理の世界を目指す人には見逃せない内容になりそうだ。

 著書の中では、志摩観光ホテルのレストランの厨房がとても静かだというエピソードも描かれている。五感を澄ませて食材の最良の状態をつかむには、無駄話や不用意な大きな音は妨げになる、一生懸命に仕事をすることの大切さを表している。この日の特別講義でも、ソースを焦がさないためには目も耳も鼻も集中させないとだめだと教えていた。

 「学生のみなさんがメモを取って真剣に聞いてくれてうれしい」と話した樋口さんは四日市市の出身。「好きだったからこの道を選んだ」と話す。料理を仕事にすることは楽なことばかりではないが、「好き」だからこそ続けられると思うという。「学生のみなさんが料理を仕事にしてからも、初心を忘れず、現実の中で自分の夢を実現してほしい」と話していた。

学生たちと記念撮影をする樋口さん(中央)

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