三重県四日市市の小原喜夫さん(79)が、万葉集の歌人を自らのイメージで描いた木版画作品を、11月12日から同21日まで、名古屋市中区のギャラリー彩で展示する。小原さんが、高校生のころからあこがれ、心の支えにもしてきた万葉歌人を、映画スターさながらに「万葉ブロマイド」として発表する。
描いた万葉歌人は30人
「万葉集が好きな人と、私が描いた歌人の姿について意見を交わしてみたい」と小原さんは開催を楽しみにしている。歌人30人と飛鳥、奈良の時代にちなむ関連の大型作品の計36点を展示する。「万葉ブロマイド」では、柿本人麻呂、山部赤人、大伴家持、山上憶良、額田王など、多くの人の記憶に名前が残っているはずの人物も登場する。
それぞれの木版画作品には、代表的な歌や人物の紹介文などを添える予定で、万葉集に詳しくない人でも、この歌人がなぜこの姿で描かれたのかが納得できるようになっている。小原さんは。髪型や衣装の柄なども古典の資料に数多くあたり、単なる想像に終わらない姿にしている。
高校生の時の国語の先生がきっかけに
小原さんは四日市南高校時代、国語の先生が企画した奈良旅行で唐招提寺や薬師寺などを訪ね、日本の古代に魅力を感じた。24歳の時、奈良県明日香村で開かれた「飛鳥古京を守る会」の記念講演で、万葉学者の犬養孝さんが語る大津皇子(天武天皇の子)の波乱に満ちた人生と、犬養さんの独特な節回しで詠む歌に魅了された。
仕事中にも和歌を口ずさむほど、万葉集が好きになった小原さんは、特に山部赤人が飛鳥の山川を詠んだ長歌が好きだといい、今でも空で詠むことができる。28歳で木版画を始めてからも大和の仏像などは描いたが、その間も、「大津皇子はどんな姿をしていたのだろう」などと、想像をふくらませた。

検査の朝、ひらめいた大津皇子の顔
75歳の時、胸が苦しくなり、病院で心電図をとることになった。検査の日の朝、突然、大津皇子の顔が頭に浮かんだという。すぐにノートにスケッチした。大津皇子が波乱に満ちた生涯だったこともあり、自らの病状に不安を覚えたが、結果、心筋梗塞の診断で手術を受けて、命を救われることになった。
元気になった小原さんは大津皇子を木版画にし、さらに額田王や有間皇子などを彫り進めた。10人くらいになったとき、作品を並べてみて、「映画スターのブロマイドみたいだ」と、勝手に「万葉ブロマイド」と名付けておもしろがっていた。今回の木版画展は、それらをまとめて発表する初の機会となる。


万葉歌人の想いや感動、現代に通じる
小原さんはビートルズも大好きだという。「彼らがつくった歌の恋の喜びや人生のひとこまでの思いは、万葉集の歌からも同じように感じられて面白い」と小原さんは感じるという。「1300年以上も前の彼らも、今と同じ人間なんだということを感じてもらいたい」とも話している。
「<万葉ブロマイド>小原喜夫 木版画展」は、名古屋市中区錦3丁目25-12、AYA栄ビル(三越北、ルイヴィトン南)のギャラリー彩で。地下鉄栄駅下車6番出口前。午前11時から午後6時までで、17日は休廊、最終日の21日は午後4時閉廊となる。入場無料。
小原喜夫さんは1994年日仏現代美術展佳作賞、98年文化庁現代美術選抜展出品、2008年高知国際版画トリエンナーレ展出品、10年環太平洋アート展カナダ文化交流協会賞などの経歴があり、2016年に作品集「小原喜夫全版画」を発表。作品は三重県立美術館、パラミタミュージアム、興福寺、奈良ホテル、多摩美術大学美術館、バルセロナ大学美術学部、北京国立中央美術学院などに収蔵されている。現在、国画会会員、日本美術家連盟会員。








