走る女神の全力接客、湯の山温泉のおもてなしを全国へ発信

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 全力で走る旅館の女性スタッフがSNSで注目され、湯の山温泉のおもてなしの実力が全国に発信されている。昔から先輩たちも走っていた駐車場案内の仕事なのだが、とりわけ、全力疾走する若い女性の姿に、「ここまでしてくれるの?」と注目が集まった。SNSで誕生した「湯の山の走る女神」。いつも通り、全力での接客を心がけている。【SNSで走る姿が注目された前田萌乃さん=菰野町の湯の山温泉】

 文人や皇族に愛され、老舗旅館の風情あふれる湯の山温泉の「寿亭」。そのフロントサービス部リーダー前田(旧姓望月)萌乃さん(23)がその人。昨年12月に結婚。この春で旅館の仕事は7年目を迎える。スタッフのシフト管理も任される立場になった。

 取材を始めてすぐ、「実は、私が初めて走ったわけではないんです」と言う。ではなぜ、今、前田さんが注目されたのか。

 エレベーターを備える寿亭の玄関は坂道の途中にある。少し下ったところの駐車場に12台分のスペースがあるが、そこが埋まると、坂を約150メートル上ったところと、約200メートル上ったところの2カ所の駐車場を案内することになる。駐車場までお客様の車を先導する時に、坂だからとゆっくり歩くのでは申し訳ない。昔から、スタッフたちは走って案内していたという。

 だが、新人で若さにあふれた前田さんの走りは、先輩スタッフたちと速さや勢いが違う。「きっと、お客様の感動も大きかったんだと思います」と同僚の女性スタッフが話す。昨年11月、その走りっぷりに感激したSNSがアップされ、それをテレビ局のスタッフが見つけてニュースで紹介。これが、湯の山の女神誕生のいきさつらしい。

 前田さんは、高校で就職活動に入ったとき、「人に喜んでもらえる仕事を」と考え、ホテルや旅館をめざすことに。寿亭の話を聞いて、ここで働きたいと思った。

 「坂道を走るのが好き」と話す。最初は下駄で走っていたが、スニーカーにはきかえ、さらにパワーアップした。シフト制で仕事をするので、走らない日もあるが、どんなシフトに入っても、「今、この接客でできる自分の最大限のことは何なのか。お客様にとって思い出の場や時間になってほしい」と考えている。だから、走るのも全力疾走なのだという。

 新型コロナでこの3年間、湯の山温泉全体への影響も少なくなかった。お客様との接し方も少し距離を取るように変わったが、それぞれの旅館で、特徴のあるおもてなしの努力は日々続いていた。前田さんなりのおもてなしの表れでもある全力疾走が、いつもやっている旅館街の人たちの努力にスポットライトを当て、湯の山温泉全体のイメージを高めたことは間違いない。

 少しずつ、日常を取り戻そうとしている旅館街。コロナの前に戻るだけではない、新しいおもてなしの姿は何だろう。今、前田さんは全力で考えている。