四日市出身の俳優 高川裕也さん迫真の語り 三浜リーディング「柘榴坂の仇討」観劇レポート

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【舞台上の高川さん=四日市市海山道町】

 「士道が何じゃ、世の噂が何じゃ、わしは掃部頭様の家来ゆえ、掃部頭様のお下知に順う。おぬしを斬るならば、わしが死ぬ」。(浅田次郎「五郎治殿御始末」中公文庫2014年5月刊より「柘榴坂の仇討」)

 水を打ったようにしんと静まり返った会場に、登場人物の感情の高ぶりをそのままに、袴姿の高川裕也さん(61)が発するクライマックスのセリフが響き渡り、ほとんど空席のない観客席で聴衆は皆、息を飲んだ。

 1月20日・21日に四日市市まちづくり財団主催、三浜文化会館で計3回上演された「三浜ステージリーディング」。リーディング公演とは、演者が台本を読む形で演じるいわゆる朗読劇の舞台だ。2024年度第1弾は、桜田門外の変が題材の浅田次郎さんの傑作短編時代小説「柘榴坂の仇討」。主君・井伊直弼を討たれ、以後13年間、敵を探し続ける男と、逃亡し身を隠した水戸浪士。「仇討ち禁止令」が布告されたその日に、因縁の2人が出会う物語を四日市市出身の俳優・高川裕也さんが熱演した。

 公演日の三浜文化会館1階創作スペースは、黒い囲いに覆われ照明装置を設置したシンプルな舞台と、約50席の観客席が作られており、小劇場の風合い。演目が時代劇とあって埋め尽くした観客の年齢層は高い。記者の観覧した初回時、おそらくこのような形の舞台観劇経験が初めてなのであろう、開演前に「読み聞かせて、初めてやわ」との声が聞こえてきたりして和やかな空気感だ。

【会場受付前の掲示】

 登壇した高川さんが簡単な挨拶をした後、「冒頭、主人公の志村金吾という男が、13年前の出来事の悪夢に毎夜うなされるというところから物語が始まります」と自身で前説を語り、舞台中央の演台に着く。眼鏡を外し、台本をめくる。次に発したその声の朗々とした様の渋さといったらたまらない。あっという間に幕末の世、明治維新後の世界に引き込まれた。 

 井伊大老を殺害した脱藩水戸浪士のうち、自首した数人の吟味に立ち会った元旗本の秋山に、志村が逃亡した浪士の消息を尋ねる場面や、逃亡し車夫に身をやつした元水戸浪士と仕事仲間の男との軽妙なやり取りの場面等、複数の人物の演じ分けは、落語を思わせる身振り手振りで臨場感たっぷり。そしてくだんのクライマックスに。「士道が何じゃ、世の噂が何じゃ――」。台本のページをめくる音も激しく鮮やかに、高川さんの声が会場に響いた。

 「四日市に、偉い人がおったんやなぁ」。終演後、聞こえてきた高川さんを称賛する声だ。「朗読劇は初めてで新鮮でよかった。小説を知らなくても、情景が目に浮かぶようだった」との声もあった。

 高川さんは、俳優の仲代達矢さん主宰の俳優養成所「無名塾」出身。1月1日に発生した能登半島地震では、無名塾が定期的に公演を行っており、密接な関係にある石川県七尾市の「能登演劇堂」も大きな被害を受けた。高川さんは、今回のリーディング公演の出演料を義援金として七尾市に寄付するとのこと。終演後、高川さんは募金箱を持って挨拶に立ち、多くの観客が寄付に応じていた。

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