朗読の会「創芸」 個々の持ち味を生かした文学作品を朗読 来場者は楽しい時間を堪能

878

【軽妙なエッセイを晴れやかに朗読する林史子さん=四日市市海山道町】

 大人のための朗読の会「創芸」の発表会が6月22日、四日市市海山道町の三浜文化会館であった。メンバーがそれぞれ思いを込めて選んだ文学作品を披露し、30人以上の来場者が物語世界の魅力に浸った。

 いくつかの出会いと別れを経てこのほど、新たなメンバーを迎え5人になった「創芸」。2017年の発足時から年に2回定期発表会を開いている。読む作品は個々に選ぶが、発表の順序は内容や長さを考えて皆で話し合って決めるスタイルだ。

 今回は、加藤佳代子さん(66)の「おじさんと短冊」(青山美智子著・「月曜日の抹茶カフェ」宝島社)から始まった。古本屋の店主と猫の優しい関係を猫視点で描いた物語。このお店がどんなに居心地がいいか、どんなに店主の「おじさん」の人となりを気に入っているのかをちょっぴり気取った様子で語る加藤さんは猫になりきっている。たまたま図書館で手に取り擬人化された猫の描写に惹かれ、朗読したいと思った作品だが、七夕の笹と願い事の短冊のくだりが、今の季節にぴったりだということが選書の決め手となった。

 2番目は、寺本修啓さん(81)による「愛の言葉」(桃戸ハル著・「5分後に意外な結末ベスト・セレクション黒の巻」講談社文庫)。敗戦後、シベリアに抑留されるという過酷な体験の後、生還を果たした老人が、子や孫に恵まれ100歳の天寿を全うする。故人の思い出話が語られる中、意外な展開に引き込まれる物語。「自分が読んで感動した」という寺本さんは、短い物語ながら多数登場する人物のセリフを聞き手にわかりやすく朗々と読み上げていた。

 年齢を重ねることについての「あるある」な体験を痛快に綴ったエッセイ「忘却新たなり」(阿川佐和子著・「無意識過剰」文芸春秋)を読んだのは林史子さん(73)。「いずれ皆、年を取って衰えるのは当たり前。だけどそれを悲観的にとらえず、軽妙な語り口で老いを語るこの作品を聞いて前向きな気持ちになっていただければ」という林さんの朗読に、うんうんとうなずきながら聞く人もいて、会場は明るい雰囲気に包まれた。

 ラストを飾ったのは、同会代表の小野田紀子さん(76)。国民的童話作家・新美南吉独特のささやかで優しい名作「うた時計」(新美南吉著・岩崎書店フォア文庫)を披露した。30代半ばの男が、道すがら清廉潔白の「廉(れん)」という名の少年に出会って言葉を交わす。実は人生の道を踏み外していた男の荒んだ気持ちが、少年との短い交流の中、解けていく様子が描かれる物語。素朴で純粋な少年の声を高々と、清廉潔白とは真逆の道を来た男の声は低く、時には上ずらせ緩急をつけて心情を表現した。

 どの発表にも来場者はじっと耳を傾け、朗読が終わると温かい拍手を送った。「作品の選択にそれぞれの人柄と持ち味がよく出ていると思った」(70代)、「楽しい時間でした。また参加したい」(80代)といった感想や、「これからも日常のささやかな幸せや、生と死などをテーマとした作品を取り上げてほしい」(30代)というリクエストが寄せられ、小野田さんは「終わってホッとしているとともに、もったいないご感想をたくさんいただいてありがたい限り。次回も皆でがんばりたい」と笑顔で語った。

【終了後、あいさつに立ったメンバー】