エリック・サティ没後100年 サックス奏者・仲野麻紀さんがトリオで奏でる、どこにもカテゴライズされないサティ

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愛用のヴィンテージサクソフォンを手にするサクソフォニストの仲野麻紀さん。撮影場所は四日市市松原町のHOLY HOUSE。
【愛用のヴィンテージサクソフォンを手にする仲野麻紀さん=HOLY HOUSE(四日市市松原町)】

 「ジュ・トゥ・ヴー」や「ジムノペディ」で知られるフランスの作曲家、エリック・サティ。没後100年を迎えた2025年、サクソフォニスト仲野麻紀さんが、ピアニストのステファン・ツァビスさん、チェリストのカールステン・ホシャフェルさんとともに全国ツアーを行う。その名も「白いサティと不透明な音楽 エリック・サティ没後100年コンサート」。

 サティの音楽と精神に新たな光を当てるこのツアー、四日市会場の「HOLY HOUSE」(四日市市松原町)では、11月3日(月・祝)にトリオが紡ぐ新たな音が披露される。


「白いサティと不透明な音楽」

 ツアータイトルの由来は、サティが残した言葉「私は白いものしか食べない」にある。 「どこか斜に構え、皮肉をユーモアにするサティ。そんな彼の言葉を借りて、不透明な現代に一石を投じたい」と仲野さんは語る。音楽表現を通じて、社会や人間の在り方を問い直そうとする姿勢が込められている。

「白いサティと不透明な音楽 エリック・サティ没後100年コンサート」のチラシ画像。
「白いサティと不透明な音楽 エリック・サティ没後100年コンサート」チラシ

サティの精神性に惹かれて

 2002年に渡仏し、パリを拠点に世界各地で演奏を重ね、ジャズとワールドミュージックを横断してきた仲野さん。自然発生的な即興、サティの楽曲を取り入れた演奏からなるユニット「Ky」でも活動し、サティ音楽はライフワークになりつつある。

 同時代の作曲家たちとは一線を画し、独自の音楽スタイルで異彩を放ったサティ。譜面に小節線がなく、時間の感覚を演奏者に委ねる――そんな作品群に、仲野さんは「自由さ」や「余白」を感じるという。「ジャズにも通じる余白の感覚。アカデミックなものに迎合せず、批判的な立ち位置を保ち続けたサティ。彼にとって、外の世界とつながる唯一の手段が音楽だったのではないかと思います」。

境界を越えたサティを奏でるトリオ

 仲野さんが手にするのは、サティが没した1925年に製造されたサクソフォン。25年前に手に入れて以来、愛用している一本だ。「マットで味のある音が出るんです。クラシックには向かないけれど、このツアーにはぴったりの響き」。

左からピアニストのステファン・ツァビスさん、サクソフォニストの仲野麻紀さん、チェリストのカールステン・ホシャフェルさんの3人によるトリオ写真。
左からツァビスさん(ピアノ)、仲野さん(サクソフォン)、ホシャフェルさん(チェロ)=仲野さん提供

 共演は、ギリシア人の血を引くピアニストのステファン・ツァビスさんと、パリ在住ドイツ人チェリストのカールステン・ホシャフェルさん。「最初はピアノとサックスのデュオでと考えていましたが、もっと広がりを感じたくてチェロを加えました。クラシックのイメージが強いチェロが、こんなふうに鳴るの?と驚かれると思います」。

 サティの楽曲を、ジャズと現代音楽の間で再構築するこのトリオは、クラシックでもジャズでもない「どこにもカテゴライズされないサティ」を生み出していく。

ジャズが内包する人類の記憶

 仲野さんは、「ジャズにはヨーロッパの要素も、アメリカ・ニューオーリンズの要素もある。そこには植民地主義や奴隷制といった人類が抱えてきた問題が含まれている」と語る。「私たちが体験しているジャズから感じ取れる問題意識を、今を生きるジャズミュージシャンとして一片でも届けることができれば」。

詩と音の間に

 音楽家として活動する一方で、仲野さんは俳人としての顔も持つ。句集を出していた祖母の影響で俳句に親しみ、渡仏後も「ふらんす俳句会」に所属して句作を続けている。「俳句は、日本人としてのアイデンティティの核のようなもの。日本語の文化に根差した『ぶれないもの』があると思います」。

 短詩形文学と音楽。いずれも、限られた言葉や音の中に「余白」を宿す芸術だ。その詩的な感性は、サティの静謐でユーモラスな音楽世界にも通じている。

仲野麻紀さんと、HOLY HOUSEオーナーの田村孝典さん(右)が並ぶ写真。会場内で撮影。
仲野さんと「HOLY HOUSE」の田村さん(右)

現代の「シャ・ノワール」

 会場となる「HOLY HOUSE」のオーナー・田村孝典さんは、「仲野さんのサティは、ホーリーハウスの空間と相性がとてもいい。リラックスして音に身を委ねてほしいですね」と話し、仲野さんも共感を示す。「私のやりたい音楽にぴったりの空間。ライティングも雰囲気もすべてが整っている。19世紀パリ・モンマルトルの『シャ・ノワール』でサティが演奏した、アーティストたちの集う空気感はこんな感じかも!」。

公演情報

◆会場:HOLY HOUSE(四日市市松原町32-4)
◆日時:2025年11月3日(月・祝)午後3時開演
◆チケット:前売り3500円、当日4000円 
◆チケット取扱:HOLY HOUSE(電話予約・取り置き可)℡(0593585573

詳細は、HOLY HOUSE公式サイト特設ページ(https://holyhouse.jp/event/%e3%82%a8%e3%83%aa%e3%83%83%e3%82%af%e3%83%bb%e3%82%b5%e3%83%86%e3%82%a3%e6%b2%a1%e5%be%8c100%e5%b9%b4%e7%99%bd%e3%81%84%e3%82%b5%e3%83%86%e3%82%a3%e3%81%a8%e4%b8%8d%e9%80%8f%e6%98%8e%e3%81%aa/

仲野さんが、バリトンギター、ウード奏者のヤン・ピタールさんと組むユニット「Ky 」による、サティ没後100年に制作した作品集(LP)の視聴サイト(https://openmusic-ky.bandcamp.com/album/eriky-satie

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