三重県菰野町・湯の山温泉街の一角にある旧旅館「杉屋旅館」の廃墟で、京都のクリエイター集団が企画した「杉屋旅館 最恐心霊ツアー」が11月末までの土日祝日に開催されている。心霊スポットとして知られ、通常は立ち入り禁止の場所。地域活性化の一助となるのか、現地を訪れた。
廃墟に足を踏み入れる——杉屋旅館の現在
杉屋旅館は江戸時代中期創業の老舗旅館だった。2000年代に廃業してから廃墟化し、現在は心霊スポットとして全国的に有名になり、不法侵入などの問題も発生している。

湯の山温泉街の課題と可能性
湯の山温泉街は、名古屋から近く新名神高速道路・菰野ICの開通により、関西方面からのアクセスも向上し、伊勢志摩や熊野古道など南部の観光地に対し、北部の玄関口として機能もある。温泉街には、ほかにも廃墟となった旅館があり、杉屋旅館には、3年前に不審火により火災に見舞われた廃墟旅館が隣接している。
温泉街は再生への模索が続いているが、廃墟が景観に影を落とす。今回のツアーは、それらの課題を逆手に取り、廃墟を“体験型資源”として活用する試みだ。
若い世代の誘致と観光の変化

今年9月には御在所ロープウェイで人気VTuber・しぐれういさんとのコラボ企画が行われ、若い世代の来訪が目立ったが、このツアーも温泉街に新しい風を呼び込むことができるか。これまで利用してきた世代と異なる世代を呼び込むことができれば、地域活性化に一定の効果が期待できる。
ツアーの内容と主催者の意図

杉屋旅館のツアーは、日本全国でホラーコンテンツの制作と監修を行うクリエイター集団「京都オカルト商会」が主催。ほかにも廃業になった旅館がある中で杉屋旅館を選んだのは、所有者や管理者が明確になっており、協力を得られたためだという。
旅館ではこれまで、許可なく敷地内に侵入する行為が相次いでいたという。今回のツアーは、所有者や管理者の許可を得て立ち入り、ヘルメット着用の上、ヘッドライトや懐中電灯を持ち、ガイドの案内で指定されたルートを見学する。倒壊の危険がある場所などは通らず、横に広がらず1人ずつ並んで歩くなど安全に配慮している。合法的に廃墟に立ち入ることができる貴重な機会だ。
ツアーは、人や特殊機器を使った演出や仕掛けは一切なく、「作り物ではない“現実の空気”を体感する」ことをテーマとしている。同商会の北村優人さんは「老朽化した建物を地域資源として再活用する新しい観光スタイルを提案します」と話す。
最恐心霊ツアー詳細

開催期間10月31日(金)~11月30日(日)の期間中の土日祝のみ。1日7回のツアーがあり、1回目は午後2時15分開始で、各回45分間。最終は午後11時15分から。各回最大6人限定で、1人から参加可。料金は1人6000円 (税込み)。完全予約制、空き枠がある場合は当日受付可。予約は公式サイトhttps://occult666love.wixsite.com/sugiyahauntedから。または予約専用サイトhttps://t.livepocket.jp/t/sugiyahauntedから。
YOU記者が体験
11月8日、YOU記者がツアーに参加した。旧旅館の入り口に立った瞬間、冷たい空気が肌を刺し、「これから何が起こるのか」と恐怖を感じた。ガイドや他の参加者から遅れると不安になった。昼間の館内は完全な闇ではなく、明かりが差し込む。
ガイド2人と参加者4人と一緒だったため、次第に恐怖は和らいだ。「廃業に至った時、そこで働いていた人たちは何を感じていたのだろう」「思い出のある旅館の廃業を知った常連客たちは何を感じるのか」と思いを馳せた。
次第に恐怖は消え、当時の人の営みに想像を膨らませる時間になった。廃墟は、ただ怖いだけではない。その場所に刻まれた記憶が、地域の未来を照らすかもしれない。

記者のツアー体験の詳細は「みんな大好き四日市市の情報満載WEBマガジン!みなすき四日市」の記事https://yokkaichi.city/2025/11/10/%e3%80%88%e3%83%81%e3%82%b1%e3%83%83%e3%83%88%e3%83%97%e3%83%ac%e3%82%bc%e3%83%b3%e3%83%88%f0%9f%8e%81%e6%9c%89%e3%80%89%e3%80%90%e4%b8%89%e9%87%8d%e3%83%bb%e6%b9%af%e3%81%ae%e5%b1%b1%e6%b8%a9/で。みなすきの記事ではツアーのチケットの読者プレゼントもある。
地元の声——静観と期待
菰野町観光産業課の担当者は「さまざまな考え方がある。町としては関与していない」と話す。湯の山温泉協会の伊藤裕司さんは「静観している。ツアーに参加することで無断侵入する人が減ることにつながれば」と話している。
湯の山温泉街では、静かな再生の試みが始まっている。“記憶に触れる旅”に出かけてみては。








