「あなたは容疑者です」。――突然の電話に肝を冷やした。相手は「通産省」や「警視庁捜査一課」を名乗る男。まるで刑事ドラマのようなセリフだったが、現実に起きた「ニセ警察詐欺」の未遂事件だ。
三重県菰野町在住で会社勤めのかたわら、カメラ談義などを配信するYouTuber「あきあかね」さん(48)は、金銭的な被害こそ免れたが、ストレスで一時体調を崩すなど、「精神的なダメージは大きかった」と語る。体験談を動画で公開し、「この被害は誰にでも起こり得る」と注意を呼びかけている。
震える指でニセ警官をスクショ
事の発端は、平日午後5時ごろ。「+88」から始まる国際番号の着信があった。まさかこの電話に2時間も拘束され、神経をすり減らすことになるとは。電話の主は「通産省の中田」と名乗り、「あなたの保険証で大量の麻酔薬が不正購入され、購入者3人があなたの顔と名前を一致させる証言をした。逮捕状が出ている」と一方的に告げた。
あきさんは普段から不審な番号はネット検索するなど気を付けており、今回も通話中に調べたが、このときは詐欺番号としての情報が見つからなかった上に、相手の畳みかける言葉に気持ちが飲まれてしまったという。「最初から金の話をされていたらもっと早く気付けたが、犯人扱いされて判断力を失ってしまった」と振り返る。
電話は「警視庁捜査一課の本田」へと「転送」され、指示されるままLINEのビデオ通話に誘導されて画面越しに警察手帳が提示された。この時あきさんは震える指でスクリーンショットを撮った。「今思えば、画面の相手の顔はAI生成のような不自然さがあった」。あきさんもマイナカードの名前と顔写真部分を提示させられた。

ホンモノの警察署へダッシュ
会話中は常に「録音しているから他人が来たら申告しろ」など高圧的に言われ思考停止状態に。金の流れの解明のためだと銀行口座や残高、振込限度額を聞かれ、調査で不審な入金がないと分かれば無罪になる可能性もあるという話に及んだ時、「やはり何かおかしいのでは?」と冷静さを取り戻し、四日市西警察署に飛び込み、難を逃れることができた。
警察で「それは詐欺です」と断言された瞬間、詐欺被害防止の一助になればと体験を語る動画配信を決めたというあきさん。「警察がLINEで連絡したり、警察手帳や逮捕状の画像を送ることは絶対にないと確認できたし、すぐに家族や友人、警察に相談することが大切だと気付いた」と話している。

ホンモノの警察官が絶対にしない!見破るポイント4つ
- 電話で「捜査対象」などと告げること
- LINEなどメッセージアプリで連絡すること
- 警察手帳や逮捕状の画像を送ること
- 個人のスマートフォンに突然ビデオ電話をかけること
迷ったら1人で抱えず相談を
警察庁によれば、2025年1〜5月の「ニセ警察詐欺」の認知件数は3,816件、被害額は316.1億円となり、急増中だ。また、2023年度には159件(電話詐欺の4%)だったスマホ・携帯電話へのアポ電が、2024年度には2234件・34%にのぼっており、年齢や職業に関係なく誰もがターゲットになり得る状況だ。
手口はLINEやSNS、ビデオ通話を駆使するなど巧妙さを増し、日々進化している。最近では、実在する警察署等の電話番号を偽造して表示させる手口も確認されているという。「おかしいな」と感じたら、相手の言葉を鵜呑みにせず、まず電話やビデオ通話を切り、周囲に相談を。専用窓口の存在を知っておくのも有益だ。
■相談窓口・参考情報
📞 警察相談専用ダイヤル「#9110」
(最寄りの警察署へつながる)