三重の秋を彩る食と文学と演劇をかけ合わせたイベント「MPAD」。飲食店で料理を楽しみ、俳優によるリーディングで演劇の面白みに触れるというユニークな試みは、2011年から続く人気企画だ。今年も11月12日(水)から22日(土)にかけて、県内各地の会場で開かれる。開幕初日、四日市会場では地元出身の俳優・高川裕也さんが初登場する。
村上龍の短編「結婚相談所」
高川さんが今回取り組むのは、「結婚相談所」(村上龍「55歳からのハローライフ」幻冬舎刊より)。「できれば現代作家を、というオーダーがあり、まず名前を挙げたのが村上龍さんです。あまりリーディングで扱われることがない作家なので、ぜひ挑戦したいと思いました」と話す。
作品について、「老年期に差し掛かり、もう叶わないかもしれない希望にそっと寄り添ってくれる優しさを感じました」と語る。従来の村上作品とは一味違う魅力を感じ取ったそうだ。

「文字になっていない部分」をどう伝えるか
リーディングにあたって高川さんが大切にしているのは、「書かれている文章を読むこと以外に、お客さんとの間で何が起きるか」という点だ。「ライブならではの柔軟さを重視しています。いい作品ほど、文字になっていない部分に感動させられる。そうした要素をどう音や『間』で表現するかが一番の課題ですね」と話す。
演出も自身で担うが、「極力、ギミック的なことや外連味は排除したい。感覚的なアプローチを何度も重ねることで、作品の本質に近づけると思っています」と語った。

三浜ステージリーディングでの経験を生かして
東京を拠点に活動している高川さんだが、コロナ禍に自らメガホンを取って四日市を舞台に、映画「GINAGINA」を制作して以降は、地元での活動も増えてきた。四日市市文化まちづくり財団が主催し、三浜文化会館で昨年と今年冬に開かれた「三浜ステージリーディング」では、浅田次郎「柘榴坂の仇討」、小川洋子「薬指の標本」に挑戦。いずれも「観客と空間を共有する時間」を大切にする姿勢が印象的だった。
「地元だからといって表現の違いはありませんが、『どうすれば喜んでいただけるか』という意識を強く持っています。今回も、過去2回の経験で得た『四日市のお客さんの前に立つ空気感』が支えになると思います」。

四日市会場「ラジカフェ」で味わう物語
四日市会場は、旧東海道沿いの諏訪商店街にあるカフェ「radi cafe apartment」(通称ラジカフェ)。居心地のよい店内で、食事を楽しんだあとにリーディングを味わうスタイルで、物語の世界にじっくり浸ることができる。
「今回は『55歳を過ぎて結婚相談所に登録する御婦人』が主人公。もし自分がこの女性だったらと感じてもらうために、会場や食事、隣で同じ話を聞く他の観客も、そのバーチャルな環境の一部となれば嬉しいですね」。
「会場の空気感、楽しんで」
「ここを体験してほしい」というポイントとして高川さんは、「イベントは音楽でも演劇でも野球でも物産展でもすべて、『参加するもの』です。会場で起きていること、その空気感に乗っかって楽しんでほしい」と話し、来場を呼び掛けている。
食と文学と演劇が織りなす特別な時間。高川さんの声が秋の四日市でどんな感動をもたらすか、楽しみだ。

■会場情報
同カフェでの開催は11月12日(水)午後1時からと、同7時からの2回。食事と公演で約1時間45分、料金は4000円。
チケットは10月4日(土)から、三重県文化会館での窓口とWEB(https://p-ticket.jp/center-mie/)で販売する他、同カフェTEL(0593524680)でも取り扱う。
問い合わせは三重県文化会館TEL(0592331122)。詳細は公式サイト(https://www.center-mie.or.jp/mpad/)へ。