秋の菰野で出会う10人の作家たち 歴史建築とアートを巡る「ART TOUR KOMONO 菰山展」レポート

寿亭水雲閣の和室に展示された書と大きなガラス窓から御在所の風景が見える様子
【寿亭水雲閣に展示された谷口竹城さんの書(屏風)と御在所の風景】

 三重県菰野町の歴史的建築や窯元の工房を会場に、絵画・陶芸・彫刻・書・写真など10人の作家が参加する「ART TOUR KOMONO 菰山展(こざんてん)」が開かれている。会期は11月16日(日)まで。アートを通して地域文化と人の営みを結びつけようという試みだ。雨がそぼ降る9日、YOU記者が町内4会場を巡った。


鎮驚庵 森の中で出会う鉄と木と絵の世界

 最初に訪れた鎮驚庵は、かつて代々織田家・徳川家に仕えた漢方医、 森家の別荘として建てられた趣ある建物。格式ある門を抜け、木々に囲まれた石段を上がる途中、鉄で馬を創る彫刻家・銅谷祐子さんの作品が出迎える。雨粒を受けながら静かにたたずむ精悍な馬の姿に思わず足を止めて見惚れた。

 会場となる展示室では、発起人の画家・佐野洋平さんの絵画や、家具作家の近澤裕司さんの作品も展示され、暖かな空気が漂う室内で、異なる素材のアート作品が、もとからそこにあったかのような調和を見せていた。

鎮驚庵の展示室で家具作品と紅葉が調和する展示風景
鎮驚庵の展示室に配置された近澤裕司さんの家具作品と窓外の紅葉

寿亭・水雲閣 文化財に広がる多彩な表現

 国登録有形文化財の寿亭・水雲閣では、窓外に紅葉の始まりを思わせる色がのぞく。陶芸家の稲垣竜一さん、漆器作家の笹浦裕一朗さん、書道家の谷口竹城さんが出展。この日は谷口さんが在廊し、訪れる人々に作品への思いを語っていた。四日市市内から訪れた書を学んでいるという女性は、「ジャンルの違う作品を一度に見られるのは貴重。建物の雰囲気も含めて楽しめました」とにこやかに話した。

寿亭・水雲閣で展示された陶芸家・稲垣竜一さんの作品。背景には御在所の自然が広がる。
寿亭水雲閣に展示された稲垣竜一さんの陶作品

馬酔木窯 森正さんが創り出す陶の空間

 陶芸家・森正さんの工房兼ギャラリー「馬酔木窯(あしびがま)」では、森さんの遊び心にあふれた陶の世界を堪能できる。1階には来年の干支「午(馬)」の作品、2階には光と影の織りなす展示空間が広がる。白壁に照明が映え、器や立像、陶板が並ぶ中、窓の外の緑が柔らかく映り込む。
 
 森さんは「今日は雨で訪れる人が少なめだが、外国人の来場もあった。大変面白い企画、続けてもらいたい」と語り、訪れる人を丁寧に案内していた。

馬酔木窯2階の展示室。白壁と照明が陶の作品を引き立てる。
馬酔木窯2階展示室

旧重盛邸「おやまの家」 再生の現場で出会うアート

 最後に訪れた旧重盛邸「おやまの家」は、江戸時代から続く旧家で、目下復旧作業中。再生現場をそのまま活かした会場には、木版画家の金沢健幸さん、彫刻家の平田茂さん、写真家の松原豊さんが作品を展示している。

 落ち着いたたたずまいの立派な門をくぐると、見事な和風庭園で、さっそく石彫の作品に出会う。 玄関を進むと、工事中の建物の土台がむき出しの空間があり、ここにも展示があった。 きゅっときしむ廊下の先の間にメインの展示室があり、障子の先に庭が見える。 ここでも名建築と自然の景観、アートが融合していて、来場者はゆったりとした時間の流れを楽しんでいた。

旧重盛邸「おやまの家」で展示された金沢健幸さんの浮世絵と制作工程を見つめる来場者。
旧重盛邸「おやまの家」で金沢健幸さんの完成した浮世絵と、摺りの工程をたどる木版を見る来場者

地域をめぐるアートツアー体験

 菰山展実行委員会の佐野さんによると、開幕最初の2日限定で行われた有料の特別企画(重森三玲作庭の横山邸園とのコラボ展示)に訪れた人は約160人。開幕4日目の11日の時点で来場者は延べ600人を超えた。「会場を回ると同じ人に何回か会ったりと、周遊している人が多くうれしいです。各会場でプレゼントしている展示作家のポストカードをコンプリートしてくれた人もいて、集める感覚も楽しんでもらえているようです」。

ART TOUR KOMONO 菰山展の展示作家10名のポストカード。記者も全種類を集めた。
YOU記者も10枚コンプリート達成したポストカード

 会期は16日(日)まで、午前10時~午後4時、観覧無料。芸術の秋・日本の秋真っ盛り。各会場をめぐりながら、地域に根差したアートの魅力に触れてみては。

 公式サイトは(https://kozanten.com/)。菰山展の紹介記事は、(https://www.you-yokkaichi.com/2025/11/04/41851/)。

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