御在所岳の東麓に位置し、開湯から1300年以上の歴史を誇る三重県菰野町の湯の山温泉。温泉客との別れを惜しむ宿の女性が涙を流した――。そんな逸話が残る「涙橋」へと続く、急こう配の通称「涙坂」を上ると、黒壁とすりガラスの引き戸が印象的な小さな店が現れる。
「ホテル雑貨 なみだざか」。老舗ホテルで実際に使われていた陶磁器や備品を安価で販売する、ちょっと変わった無人雑貨店だ。オープンは2025年4月30日。「使われなくなったホテルの食器や備品にもう一度光を当てよう」と始まったこの店は、湯の山温泉旅館街に新たな彩りを添えている。(Youよっかいち記者E)

掘り出し物の宝庫
引き戸を開けて中に入ると、なんだか懐かしい空気感。中央に、染め付けの大皿やガラス皿が所狭しと置かれたテーブル。端の棚からゆっくり見て回ることにする。ホテル客室で使われていたというダイヤル式の電話機が目に付いた。値札は1000円。アンティークな天井吊り下げ照明、壁掛け時計、古代陣太鼓、チェーンソーアート、カップ&ソーサーなど、多彩な品物が並んでいる。

価格帯は、安いものは50円や100円、大皿は200~300円、カップ&ソーサーはそれぞれ150円などお値打ち。どれでも1つ10円のお買い得品が盛られたカゴもあって宝探し気分。中には3000円の値札のついた花器や、5000円の太鼓など見るからに高級そうな品物も。見ているうちに時間を忘れてしまう。


実際に買い物してみた
筆者は、1枚300円の白地でシンプルな大皿3枚を選び、購入することにした。お代の900円を備え付けの料金箱へ。


カウンターには段ボール箱や新聞紙、プチプチ、テープ、はさみなどが用意されており、包んで持ち帰ることができる。袋は置かれていないため、必要に応じてエコバッグの持参がおすすめだ。

「来訪記念ノート」にほっこり
昭和や平成の旅館文化を思わせる「来訪記念ノート」もあった。表紙に「旅の思い出や行ってよかった場所など、自由にお書きください」と書かれており、ページをめくると、来訪者の書き込みがあふれていた。
「グラス買って帰りました。森がキレイ!川キレイ!」、「親子で来ました。おもしろいものがいっぱいありました」、「50円の3つグラスと200円のみそしるちゃわん買いました。ネパール人です。又くるね」、「久しぶりに帰ってきました。ただいま」――。
雑貨を買うだけでなく、ふと書き残された言葉にほっこりさせられた。店内には無料の休憩コーナーもあり、ゆったりと過ごせる。
人の手が行き届いた店舗
同店を立ち上げたのは、ここから徒歩3分の鹿の湯ホテル総括の野口員敬さん。「ホテルでは、新しい食器やアメニティを導入するたびに、まだ使える古い備品がどんどんたまっていきます。でも捨てるには惜しい。使ってくれる人がいればという思いで始めました」。
オープンから間もなく2か月。人通りの少ない平日の「涙坂ストリート」に位置する店舗だが、毎日何かしらの商品が売れているという。「最初は登山客が立ち寄る休憩所になるかな、ぐらいに思っていたんですが、思った以上に買い物に来てくださる方が多くて」。倉庫に眠る品物はまだまだたくさんあるそうで、今後は浴衣やタオルなどのアメニティも順次並べていく予定だという。「涙坂ストリートの活性化につながり、来店した方が温泉に浸かっていってくれたらうれしいですね」。
「ホテル雑貨 なみだざか」、無人店舗でありながら、人の手が行き届いている。来るたびにラインナップに変化があり、毎回楽しめそう。リピートしたい雑貨店だ。
【店舗情報】
店名:「ホテル雑貨 なみだざか」
場所:三重県菰野町・湯の山温泉「涙坂」沿い
営業時間:10:00〜18:00
定休日:火曜(祝日は営業)
営業形態:無人販売(料金箱に支払う方式)