三重県四日市市に伝わる伝統行事「鯨船」。その1つ「鯨船勢州組」が、7月13日午前、四日市市立中央小学校の運動場で大四日市まつりの本番に向けた稽古を行った。厳しい日差しの下、地域内外から集まった子どもから大人まで、約30人が額に汗をにじませながら練習に打ち込んだ。
伝統の船に未来を乗せて
この日参加したのは、「鯨船の唄」の歌い手や太鼓叩き、船の曳き手の大人たち、そして船上で踊りを披露する「踊り子」と両側に設けられた櫓(ろ)を漕ぐ「櫓漕ぎ」の小さな子どもたち。踊り子は小学校高学年、櫓漕ぎは幼児から低学年の子どもたちが務めており、校区の枠を越えての参加が特徴だ。伝統的に男児に限られることの多い鯨船の船上演技だが、勢州組では女の子の櫓漕ぎも受け入れている。
踊り子を務めるのは、大谷台小学校5年の笠井倫太郎さん。小学3年生の時からこの役を担い、今年で3年目。自身の地元・四日市市小杉町の小杉神社に奉納される獅子舞では「口取り」を務めるなど、地域の伝統行事に積極的に関わっている。

笠井さんが勢州組と出会ったきっかけは、四日市を代表するからくり山車「大入道」への興味からだった。YouTubeを通じて勢州組保存会会長の水谷宣夫さん(78)が運営するまちかど博物館「大入道さんminiミュージアム+Y」(四日市市本町)の存在を知り、同館や夏・秋の祭りに通ううちに水谷会長から声をかけられたという。
「最初の頃より、いろんな動きがスムーズにできるようになってきた。本番に向けて、もっと上手になれるよう練習を頑張りたい」と話す笠井さんの目は、稽古の合間にも輝いていた。
「復活」をスタートに育てた10年の歩み
勢州組は、戦災で失われた北納屋町の旧勢州組の鯨船をルーツに、2014年に本町通り商店街で復活。保存会の水谷会長は「10年前、私たちはほとんどゼロの状態から活動を始めました」と語る。
「受け継がれた伝統がある地域では、それを守り伝えていくことが大切。でも勢州組は『10年前に始まった新しい伝統』のようなもの。今の時代に合う形で、無理なく次世代につないでいければ」。

勢州組では現在、大小2頭の張り子の鯨を所有している。いずれも往年の鯨の骨組みを活かして近年張り替えたものだが、人手不足のため、復活以降「子鯨」は一度も登場していない。こうした現状から、地域を問わず、通年で仲間を募集している。
毎月1回の稽古は欠かさず続けており、コロナ禍の際も陰性確認を徹底し、できる範囲での稽古を継続してきた。水谷会長は「関係者が高齢化する中で、稽古が途絶えれば、活動そのものが先細りし、つなぐことができなくなってしまう。だからこそ、稽古を止めないことを大切にしてきました」と振り返る。
この10年、大切に育ててきた新しい伝統を、次の世代へ。未来の担い手と共に、勢州組の挑戦は続いている。
問い合わせは、鯨船勢州組保存会 水谷宣夫さん(☎090-2771-8820)へ
出演情報
勢州組は、8月4日(日)の大四日市まつりに出演。三滝通り内の3会場で鯨船演技を披露する。
- 午後3時20分頃~ 沖の島会場
- 午後4時頃~ 西会場
- 午後4時半頃~ 交差点会場