高校生が作る「死産した赤ちゃんの棺」 四日市中央工業高校

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木工部の部員と伊藤教諭と洲上さんの前に棺がひとつある
【制作した棺を前に記念写真を撮る部員と伊藤教諭と洲上さん】

 「人の役に立つものづくり」をテーマに活動する三重県立四日市中央工業高校(四日市市菅原町)の木工部に、特別な依頼が届いた。死産した赤ちゃんの棺の制作だ。高校生たちが棺に込めた思いとは。

普段の活動から一歩先へ

 木工部は、学校の備品や多気町の観光施設「VISON」の酢の専門店「MIKURA Vinegary」の棚、介護施設の雀卓など幅広い木工品を作ってきた。今年4月、過去に注文した人の紹介で、顧問の伊藤了教諭に死産した赤ちゃんの棺の制作依頼が届いた。


 これまでと違い、製品を使う人は心に傷を負っている。依頼した看護師の洲上雅子さんを招き、話を聞いた。病院では段ボールに死産した赤ちゃんの遺体を入れて母親に渡すことが多いと聞き、生徒たちは驚いた。

心に寄り添うものづくり

 部長の上田琉斗さん(2年)は「いつも以上に、細かい所まで丁寧に作ろう」と気持ちを引き締めた。「棺に彼岸花を描いては」などの意見も出たが、「悲しみ寄り添うのに、装飾など無いシンプルものがいい」との結論に至った。

出来上がった棺を洲上さんに手渡しする部長の上田さん
出来上がった棺を洲上さんに手渡しする部長の上田さん

一人ひとりの責任感

 木材は津市美杉町で林業を営む「三浦林商」の檜を使い、棺の蓋はスライド式にした。蓋がスムーズに動くように工夫し、閉まり方も余韻が残るよう配慮した。作業は担当を決めて分業するのではなく、一人ひとりが完成まで一つの棺を担当し、仕上げた。

 出来上がった棺のサイズは横21センチ、縦28センチ、高さ15センチ。個人差はあるが、妊娠5、6か月くらいまでに死産した赤ちゃんを入れられる。臨月に近い赤ちゃんは50センチほどになるので、木工業者が作った棺を使う。

縦に積まれた木材を確認する伊藤教諭
木材を確認する伊藤教諭

女子部員の戸惑いと決意 

 唯一の女子部員の愛洲寧々さん(2年)は「こんなに大切なものを高校生が作っていいのか」と戸惑い、「自分が亡くなった子のお母さんだったら」と思いを巡らせた。赤ちゃんが亡くなる悲しさよりも、大切なものを作っているという責任の重さを感じたという。

活動のフライヤーを見ながら洲上さんと話をする愛洲さん
洲上さんの話に耳と傾ける愛洲さん

安心を届ける工夫

 岡野蒼弥さん(1年)は、「どうやったら安心して使ってもらえるか」と考えた。尖った部分があったり、表面にざらつきがあるのは避けたいと、やすりで滑らかにすることに力を注いだ。棺を使う人に会うことはないが、制作を依頼した洲上さんに喜んでもらうことを考えたという。

棺にやすりをかける岡野さん
棺にやすりをかける岡野さん

命の尊さを知ってもらう喜び

 12月18日、生徒らは洲上さんに19基の棺を手渡した。洲上さんは「思いの詰まった棺を作ってもらえて、本当にありがたい。世に生を受けられなかった赤ちゃんの命も、大人の命も一緒であることを、高校生に知ってもらえたことがうれしい。これから大人になる中で、いろんな人の立場で考えてくれたら」と語った。

洲上さんの車に棺をのせる部員
洲上さんの車に棺を運ぶ部員

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