手術を含む高度な治療を手がける眼科の新体制
三重県立総合医療センターでは今年度、眼科の体制を一新した。眼科医の中でも全国的に人数が少ないとされる、緑内障を専門とする医師を迎えたほか、緑内障治療専用のレーザー機器、眼の奥の網膜や視神経、血管などの様子をとらえる最新の広角眼底カメラなどを配備した。これまで対応できなかった手術もできるようになり、総合病院として地域での役割を果たすべく、治療を充実させている。新たな眼科が目指す姿を、担当の田中康平医師(34)に聞いた。
白内障手術だけでも月40件前後に
田中医師は三重大学医学部附属病院などで診療にあたり、多くの治療を手がけてきた。当院への着任にあたって、「白内障や緑内障の手術、ほかの高度な治療など、総合病院がすべきことをしっかりできるようにすることが、当面の私の役割だと思っています」と話している。
4月の着任以降、さっそく多くの手術を行っている。加齢などが原因で視力が落ち、手術を求める患者さんも多い白内障に限っても、月曜と木曜の週2回を手術日とし、1日3件から5件、月換算では40件前後の手術を行っている。
新体制になる前と比べると、この手術件数だけでも当院にとっては相当な伸びとなるが、田中医師は「今は医師が私だけなので限界もありますが、できれば、もう少し増やしたい」と言う。白内障の手術を望み、順番を待っている患者さんは多く、「少しでも早く手術をしてあげたいと思います」と話している。
緑内障の専門医は多くない
白内障に次いで田中医師が手術の柱に据えているのが、専門分野である緑内障だ。緑内障は日本における中途失明の原因第1位ともいわれ、気づかないうちに徐々に進行していく怖さがある。
白内障は、眼の中でレンズの役割をする水晶体が白く濁って症状が出るが、緑内障は眼の奥にある視神経が障害を受けて起こる。徐々に視野が欠けていくのだが、ものの見え方には自覚症状がないまま進行し、失明につながる。
眼の中では、房水と呼ばれる透明な液体が循環している。その出口である線維柱帯という網目状の組織が目詰まりを起こすことで循環が妨げられ、眼の中の圧力である眼圧が高くなって視神経に影響を与える。緑内障の手術は、この眼圧を下げることを目的に行われる。

最近は新しい点眼薬がどんどん開発され、早く気づけば、点眼薬だけで治療できる人も多くなったという。しかし、点眼薬の効果が不十分な場合などは、眼の中にマイクロフックと呼ばれる先端が小さく曲がった器具を入れるような繊細な手術を行うことになる。緑内障の手術を専門にしているクリニックもあるが、多くは大学病院で行われているという。
全国的にも緑内障を専門とする医師は少ないといわれる。大学病院以外で勤務する専門医の数が限られるため、総合病院であっても、どこでも緑内障の手術ができる状態にはないのが現実で、当院での治療には地域からも期待が寄せられている。
さらに、当院では緑内障治療専用のレーザー機器を新たに導入した。眼に直接手術器具を入れるのとは異なり、レーザーで線維柱帯のメラニン色素だけを焼き、循環をよくすることで眼圧下降が期待できる。痛みも少なく、安全な治療ができるという。「この医療機器は、まだどこにでもあるものではないので、有効に活用したいと考えています」と田中医師も期待している。

視能訓練士の着任と高機能の機器類
当院の眼科には、田中医師のほか、新たに視能訓練士の石垣沙久来さん(24)も着任し、交代制の看護師を加えた3人体制で患者さんを迎えている。視能訓練士は、眼科医の指示のもと、視力検査や視野検査などの視能検査をするほか、小児の斜視や弱視などに対する視能矯正を行う国家資格をもつ専門職で、田中医師にとっても、なくてはならない存在だ。
「眼科を本格的に立て直したいと医療センターからお誘いをいただき、最新の医療機器もたくさん揃えていただきました。大学病院並みというか、私が見てきた医療機関の中でも間違いなく充実した内容になっています」と田中医師は話す。診察を担う田中医師の横で、視能訓練士の石垣さんが眼底カメラなどでデータを集め、治療を支えている。
今回、20台近くの新しい機器を揃えた中でも、田中医師が特に注目する機器が3つある。最新の広角眼底カメラ、網膜電位図測定器、そして、すでに紹介した緑内障治療専用のレーザー機器だ。
眼底検査は、従来は事前に散瞳薬を点眼する必要があった。ただ、この点眼薬は4~5時間程度ぼんやりと見える副作用があり、帰宅時に車の運転などができなくなる課題もあった。導入した広角眼底カメラは、この点眼をする必要がなく、すぐに撮影できる最新型で、患者さんへの負担を軽減できる。
網膜電位図は、眼に光を当てたときに網膜から発生する電気信号を測定する検査だ。これまでは、点眼麻酔をして非常に大きなコンタクトレンズを装着し、暗室で横になって検査をしていたため、患者さんへの負担が大きかった。最新の測定器「レチバル」は、事前処置も不要で、眼に光を当てるだけで測定できるため、負担を軽減し、検査時間も短縮できる。


眼は生活習慣病を映す鏡
眼は、からだの状態を映す鏡でもあるといわれる。糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病による症状を反映し、眼にも何らかの兆候が現れていることが多いという。たとえば糖尿病が進行すると、眼の中の毛細血管がもろくなって出血するようになり、進行によって視力が低下し、重症の場合には失明してしまうこともある。
眼底カメラで撮影すると、網膜のところどころで出血が起きている状態が写し出される。しかし、出血だけでは視力に影響がほとんどないとされ、自覚症状が出ないうちにどんどん悪化してしまうケースが多い。早めに診察を受けることで、視力を失わないように治療を始めることができ、からだ全体の健康管理に取り組むきっかけにもなる。眼科は他の診療科と連携し、生活習慣病から見る力を守るよう努めている。


見えることの喜びをいつまでも
田中医師は、子どものころからサッカーや野球など多くの球技を経験してきたそうだ。「眼は眼球という人体におけるボールだなと、何となく親近感を持ったのが、眼科を選んだきっかけでした。手術ができることも目標だったのですが、自分の性格を考えると、短時間で集中する手術が合っている。それも眼科を選んだ理由のひとつです」とふりかえる。
人が日常生活に必要な情報を得るうえで、見ることは大きな割合を占めているといわれる。「手術を終えて、患者さんから『よく見えるようになって、また好きな趣味ができるようになってうれしい』などと言われたときは、よかったなと思います」と田中医師。いつまでも見る力を保てるよう、患者さんを診ていきたいという。
「とくに緑内障については、セカンドオピニオンの相談にも応じますので、ご心配なことがあればいらしてください」と話している。
田中康平医師の経歴

1992年生まれ。三重大学医学部附属病院、名張市立病院などで勤務し、2026年4月に三重県立総合医療センターに着任。緑内障を専門とし、三重大学医学部附属病院でも多くの手術などの治療にあたった。趣味は球技で、現在はボウリングとゴルフに打ち込んでいる。













