三重県菰野町にアトリエを構え、絵の教室「楠々社」を主宰し10年になる画家・佐野洋平さん(45)と、いなべ市で2020年に木製オーダー家具工房「タリル」を開業した弟の佐野哲平さん(41)。四日市市で生まれ育ち、ジャンルは違えど芸術的なものづくりを志した兄弟による初の二人展「山の絵と木の椅子」が、名古屋市西区のノリタケの森ギャラリー第二展示室と四日市市羽津中のPOLLOCK COFFEE(ポロックコーヒー)で開かれる。目に見える風景を写し取りつつも精神世界を内包する山の絵と、素材の魅力を最大限に生かした木製家具の素朴な佇まいのコラボレーション。会期はノリタケの森ギャラリーが7月17日(水)から21日(日)まで、POLLOCK COFFEEでは同23日(火)から8月4日(日)まで。(7月29日は休み)入場無料。
洋平さんが自宅から見渡せる鈴鹿山脈の御在所岳・鎌ヶ岳・入道ヶ岳を描いたf0号(180×140ミリ)からm40号(1000×652ミリ)までの作品約35点(油彩30点以上、ドローイング3点以内)と、哲平さんが同展のために制作した木の椅子(栗・チェリー・ナラ・ウォールナット・ヒノキ材)8脚・テーブル(タモ材)2台で構成。それぞれの作品をしっかり見せながら、部分的に「室内」をイメージできるように配置する。(POLLOCK COFFEEでは、スペースの都合上、抜粋作品の展示)。
◆線や三角形を使って表現したいのは、人と世界のつながり
幼い頃から絵を描くのが大好きで、「保育園の時、いくらでも描いていいよと用意されていたわら半紙を誰よりも消費した」という洋平さんは、県立四日市高校在学中に美術大学を志望し、金沢美術工芸大学美術科油画専攻を卒業。フリーター・中学校の講師・イラストレーター・施設管理運営などの職を経て、2015年に楠々社を設立、自身の表現を追求する道に分け入った。「人がどのように世界を認識しているのかに興味があり、気付いたことを絵に表現しています。山の絵は自宅から鈴鹿山脈が見えるというのと、もともと三角形の組み合わせによる表現をしていた中で、山も三角と線で表せると思い、2年前から描き始めたもの。線は現実世界と精神世界の境界にもなっている。季節や時間帯を描いているものもあるが、同時に心象風景でもある」と語る。「シンプルなものの中に、人間の心の中と現実を重ねたい」。簡潔ながらも奥深い俳句のような表現を目指し、人生という旅の記録を絵にしているそうだ。
◆木の魅力を引き出せるよう、素材と日々向き合う
同じく幼い頃から工作が大得意で、小学校高学年の図工の授業では「蓋を二重にしてミイラが出てくる細工を施した棺桶」、中学3年の時には「寅さんがバナナのたたき売りをするからくり人形」を作ったという哲平さんは、県立川越高校卒業後、フリーターを経て機械メーカーの正社員として企業相手のものづくりに従事したが、自身の創意工夫を極めたいという思いから退職。30歳の時に職業訓練校に学び、注文家具制作工房での修行後にタリルを開業した。「木材価格が高騰する中、木を使うのはある意味贅沢。あえて木製の家具を作るからには、いかにうまく素材を使うかを大事にしています。その木独特の構造やルールに従って、僕の個性ではなくその木の良さを前面に出す。その上で、実用的かつ、きれいな佇まいに」と話す。「まず、その木を使う意味を考える」。言葉の端々に、木材への愛があふれている。
洋平さん、哲平さんの展覧会会期中の在廊日は、それぞれのホームページやSNSに掲載予定。
佐野洋平ウェブサイト(https://www.r1059.net/)
タリル ウェブサイト(https://taril.net/)