訪問看護の現場で、残された時間を「その人らしく、穏やかに」過ごせるよう支えてきた三重県四日市市の看護師、藤島ちさとさん(60)。死を悲しみだけで捉えるのではなく、自然な営みとして受け止め、喪失に備えながら今を深く生きることを伝える「グリーフケア」の講座を開いている。

幼いころから体が弱く、両親も入退院を繰り返していたという藤島さんは、その経験から看護師の道へ進み、訪問看護の現場に携わってきた。自宅で最期を迎える人に寄り添う中で、家族の関係が修復される場面にも数多く立ち会ってきた。
訪問看護の現場で見た最期の時間
長く絶縁状態にあった父娘が、父親の「今まで悪かった」との最期の言葉で和解したこともあった。女手一つで子どもを育て上げた女性が余命を知り、子どもや高齢の親のためにやり残したことを一つずつ成し遂げ、穏やかに旅立った姿も印象に残っているという。藤島さんは、死は悲しみだけでなく、感謝や愛情を伝える人生の集大成でもあると感じるようになった。
妹が教えてくれたこと
その思いをさらに深めたのが、妹の森川尚美さんの闘病だった。40歳で大腸がんを患い、実家で療養する妹と「やりたいことリスト」を作り、一つずつ実現していった。藤島さんの孫と遊ぶ、紅葉を見に行く、家族で食事に出かける――。尚美さんの笑顔は、病気になる前よりも輝いていた。かつて疎遠だった期間を取り戻すかのように、家族の絆を深めていった。

「今が幸せ。もう十分時間をもらった」。そう語った尚美さんは、2022年、49歳で静かに生涯を終えた。

妹やこれまで出会った患者、その家族たちとの関わりの中で、藤島さんは「死は特別なことではなく、自然なこと」と実感するようになったという。大切な人を失う悲しみに寄り添うため、妹の死後にグリーフケア心理カウンセラー講座の講師資格を取得。現在は看護学校の非常勤講師も務める。
喪失を抱えた人に寄り添うこと
喪失は死別に限らない。子どもの自立や結婚、ペットとの別れ、転職、失恋など、人生の節目で深い喪失感を抱くことは誰にでもある。藤島さんは、「無理に乗り越えようとしなくてもいい。悲しみを抱えたままの自分を受け入れてあげること」がグリーフケアの第一歩だと語る。
周囲の人が悲しみに沈んでいるとき、「何とかしてあげよう、励ましてあげようという思いを手放して。ただそばにいることが大切」と藤島さんは話す。苦しみに耳を傾け、一緒に時間を過ごす。それだけで十分な支えになるという。
「これでよかった」と思えるために
看取りの現場で向き合ってきた時間の中で、藤島さんはグリーフケアは、生きているときから始まっている、と感じてきた。「亡くなる人との関わりを思い出せる『いま』を重ねることが、のちのグリーフ(悲嘆)を和らげる」と語った。
「もっとできたはず」と後悔が残ることもある。それでも、その時の自分にできる最善を尽くしていたと認めることが、やがて亡くなった人の人生の肯定につながっていく――。
「自分の人生に目を向け、与えられた時間を精いっぱい生きてほしい」。昨年出版した著書「わたしの人生なかなかよかったね」にも、その思いを込めた。

広がるグリーフケアの輪
藤島さんは3月21日、四日市市内で開かれた講演会の講師に招かれた。参加者の一人は「今まで蓋をしていた気持ちに気づいた。自分の人生について考えられてよかった」と語った。藤島さんは公式LINE(https://lin.ee/r3OqcN8)で個別相談も受け付けている。悲しみとともに生きる人に寄り添いながら、グリーフケアを伝えている。









