三重県四日市市泊山崎町の「貝沼内科小児科」院長・貝沼圭吾さん(47)は、日々の診療を通して、病気の裏側に「孤独」が潜んでいると感じるようになった。家族とのすれ違いや子育ての不安、学校や職場での居場所の無さ。症状の裏側に、誰にも相談できない思いを感じてきた。その経験から、医療だけでは届かない部分を支えるために、地域で人と人がつながる場づくりに取り組んできた。
病気の裏側に潜む孤独
診察室には、離乳食を食べない、言葉が少し遅い気がするなどと受診し、「しばらく様子を見ましょう」と伝えても、毎日のように受診する子育て中の人がいる。病気で学校に馴染めず不安を医療者にぶつける中学生が訪れる。医学的に見れば、検査を追加する必要も、薬を増やす必要もないことがあるという。
「昔だったら、母や祖母、近所の人に、それくらい大丈夫だよと、言ってもらえたのかもしれない。今はそれを言ってくれる人が周りにいない人が、その不安を抱え診察に来る」と話す。
以前なら、身近な子育て経験者に相談するようなことでも、今はまずスマートフォンで検索する人が多いという。検索結果には「発達障害かもしれない」「重い病気の可能性がある」といった情報も並び、調べるほど知識は増える。一方で、不安も増えていく。
以前なら目の前の誰かからかけてもらう「大丈夫だよ」という一言で安心できた。「情報が増えたことと、安心できることは同じではない」と感じているという。
孤独というと、一人暮らしの高齢者を思い浮かべがちだ。家族と暮らしている人や、友達がいる人、SNSで何百人とつながっていても、自分の不安を話せる相手がいなければ孤独になるという。
内閣府の「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」の2024年の調査では、約4割の人が孤独を感じているという結果も出ている。
制度では救えない孤独を地域で支える
貝沼さんは厚生労働省の医系技官として、医療制度や政策をつくる仕事をしていた経験がある。その経験から、制度だけでは救えない孤独があることも痛感した。医療で薬は処方できても「居場所」は処方できない。
地元に戻り、父のクリニックを継いだ後、子育て支援センターや子ども食堂、産後ケア施設などを立ち上げ、地域に人がつながる仕組みを作った。

子ども食堂で調理を手伝う高齢女性は、夫を亡くし孤独を抱えていたが、活動に参加する中で笑顔を取り戻し、今では「誰かの役に立つ側」になっている。

「ある時は支えてもらい、元気になったら今度は誰かを支える。それが地域の中で循環していけばいい。そんな共生(ともいき)社会にしたい」と願っているという。
自身が経験した孤独と立ち直り
貝沼さん自身が中学生時代に孤独と挫折に陥り、恩師との出会いで、人とのつながりのある場所へ戻してもらった経験がある。
時代は変化し社会のつながりが弱まり、人々が孤立しやすくなっている。コロナ禍以降のその動きは加速している。
孤独は誰にでも訪れる。学校に馴染めない時、職場で周囲と合わない時、子どもが独立した時、親や配偶者を亡くした時など、心が揺らぐ瞬間がある。

こうした経験や地域での取り組みをまとめた著書「孤独の処方箋」を出版した。医療だけでは届かない“孤独”に向き合うためのヒントを本に込めたという。
孤独を抱える人に寄り添う居場所づくりは、これからも続いていく。







