三重県四日市市諏訪栄町の諏訪神社で、10月3日(土)・4日(日)、例大祭の四日市祭が開かれる。かつてこの祭りに繰り出し、子どもたちが乗って諏訪太鼓を打ち鳴らした船型の山車があったことを知っているだろうか。
使われなくなって久しい船形山車「栄丸」は、10年以上、諏訪公園内の倉庫に眠っている。処分の話も出ている栄丸を、「再生させたい」と動いている人たちがいる。
諏訪公園で眠る船形山車「栄丸」の前途
一般社団法人四日市観光協会会長として、まちづくりに関わる野村昌嗣さん(44)が「栄丸再生プロジェクト」を立ち上げたのは2025年6月。倉庫に眠る栄丸の存在を知り、実物を見た瞬間に造形に惹かれ、「これは残さなくては」と感じた。
全長8メートルの栄丸は、少なくとも60年ほど前に、船大工が手掛けたとされる木製の船形山車。船体の下にはマツダ製の三輪トラックの車台が使われ、ゴムタイヤ、ハンドル、ブレーキを備える。船尾に「諏訪」「北部」の文字、その間に「栄丸」と記されている。

野村さん自身は諏訪育ちではなく、子どもの頃に栄丸に乗った経験はないが、「太鼓をたたく子どもたちがいなくても、この船の活路はあるはず」と考え、まずは関心を持つ人を集めようとSNSで協力を呼びかけた。すると、「私も昔、乗りました」「子どもたちの思い出がいっぱい詰まっています」「何とか残せる方向に」「祭りに復活させたい」と協力を申し出る声が相次ぎ、昨年7月には、有志8人で倉庫から出して清掃した。

栄丸、再生への課題
栄丸の持ち主・諏訪栄町北部自治会の中村裕行会長(62)は、小学1年生のころ、栄丸に乗って太鼓をたたいた。「船に乗って太鼓をたたくのは、子ども心に特別なことだった」。他の町内では、子どもたちがトラックの荷台で太鼓をたたいていたのをうらやましく思う反面、自分たちが船に乗れるのは誇らしかったと振り返る。
しかし、時代とともに子どもの数が減り、町内の祭りの形も変わった。太鼓は練習が必要なのに対し、神輿は練習をしなくても参加できることから、次第に子ども神輿が主流になり、栄丸に子どもたちが乗る機会はなくなっていった。
中村さんは栄丸の倉庫の鍵を預かり、約20年にわたって管理してきた。「栄丸に思い出はあるけど、思い入れはない」と率直に話す。「懐かしい」と感じる一方、再び祭りで使うには人手や運行するための準備、日常の管理に加え、維持や修繕にかかる金銭的な負担もあり、復活には手放しで賛成できないとの立場だ。
何度か復活した栄丸
1994年9月の中日新聞には、子どもの減少によって途絶えていた船が、「諏訪神社秋祭り」(現在の四日市祭)で、5年ぶりに復活したとする記事が掲載されている。
同記事によると、当日はそろいの法被姿の子どもたちと父母が諏訪神社に集まって船に太鼓を積み込み、子どもたちが太鼓を演奏する中、大人が船を引き、付近の商店街などを練り歩いたという。

その後も栄丸は、途絶えては復活することを何度か繰り返してきた。
2000年代には、諏訪商店街振興組合が諏訪栄町北部自治会から栄丸を借り受け、祭りの際、諏訪新道に設置し、子ども諏訪太鼓の舞台として使った。
諏訪新道で文具店を営む服部晃典さん(55)は2008年、当時小学生だった自身の子どもが諏訪太鼓をしていたことから、栄丸を祭りで使う活動の中心となった。


最後に使ったのは2014年で、以降、船は現在に至るまで日の目を見ていない。服部さんは、「子どもが中学生になって活動に関わらなくなり、その後を継ぐ人もいなくなりました」と寂しそうに語る。
自身も小学生の頃に、当時は祭りの際、諏訪商店街アーケード内の店舗「キタオカ」前に置かれた栄丸に乗って太鼓をたたいた思い出があった。「ぜひまた祭りで復活させたいですね」。
栄丸を取り巻く現状
栄丸は大きな損傷はなく、タイヤの修理をすれば動かせそうだという。しかし実際、倉庫から出して移動させるには、いったん直進した後に方向を変える必要があり、ハンドルを操作する人や周囲の枝を避ける人なども含め、10~20人ほどの人手が必要だという。
また、諏訪公園では再整備が進められており、今後2~3年は工事の影響で栄丸を自由に出し入れすることが難しい。整備の過程で倉庫を解体する場合、市は倉庫の解体費用を負担するが、栄丸の解体費用は対象外としている。解体費用は約30万円と見積もられており、諏訪栄町北部自治会にとっても負担が課題となっている。

栄丸の保存・活用策を模索
野村さんは、栄丸の保存場所や活用を含め、現実的に可能な方法を探っている。「イベントの際に駐車場などへ運び、展示したりDJブースとして活用したりできたらいいな、と思いますね」。
保存の難しさを実感しながらも、地域資源として生かしていきたいという思いは変わらないという。「単なる古いものとしてではなく、私たちの街の『記憶』として、次の世代へつなげていきたいんです」と語った。
















