猫が大好きなのに、猫と暮らせる部屋が見つからない。そんな悩みを抱える人たちに寄り添う、猫専門の不動産会社「ゴロゴロ不動産」が四日市市蔵町にある。代表を務めるのは、アコルデサイン株式会社の小阪靖子さん。事業の原点には、愛猫「コーギー」との出会いと別れ、そして果たせなかった約束がある。小阪さんのこれまでの歩みをたどった。
悲しみの中で出会った一匹の子猫
小阪さんが25歳の頃、父親ががんを患い、4年間の闘病の末に亡くなった。その後、母親にもがんが見つかり、看病のため家業を手放した。経済的にも苦しい日々が続く中、母親も2年後に他界。大切な家族を相次いで失った小阪さんは、深い悲しみの中にいた。
そんな母親との別れから約1カ月後、ある工場で痩せて汚れた一匹の子猫と出会った。弱々しく歩く姿が気になり、一度はその場を離れたものの、どうしても放っておけずに引き返した。子猫はまだ工場の中をよろよろと歩いていたという。
小阪さんはその子猫を抱き上げ、空き家になっていた実家へ連れて帰った。拾った場所にちなんで「コーギー」と名付けた。
しかし、当時暮らしていたアパートはペット禁止。コーギーと一緒に暮らすことはできなかった。
それでも、仕事の昼休みや帰宅後、休日にも実家へ通い、食事を共にした。体調が悪く仕事を休んだ日も、コーギーの世話のため実家へ足を運んだ。
家族を失い、寂しさを抱えていた小阪さんにとって、コーギーはかけがえのない存在になっていった。離れて暮らさなければならなくても、一緒に過ごす時間は何よりも大切だった。

猫と暮らせる家が見つからない「猫暮らし難民」
その後、夫と出会い結婚。岐阜県から夫の住む四日市へ移り住むことになり、コーギーと3人で暮らせる新居として中古の分譲マンションを購入した。
リフォームを進め、ようやく家族そろって暮らせると思っていた矢先、思いがけない事態が起きた。リフォーム中にマンションの管理規約が変更され、ペットの飼育が禁止されてしまったのだ。
コーギーと離れることは考えられなかった。購入したマンションの売却も検討し、当面の住まいとして賃貸物件を探し始めた。
ところが、犬はよくても猫は禁止という物件が多く、猫と暮らせる物件が見つかっても、設備が古かったり、防犯面に不安があったりと、希望に合う住まいはなかなか見つからなかった。
小阪さん自身、猫と暮らせる部屋が見つからず困っている「猫暮らし難民(にゃんみん)」だった。
結局、ほかに住まいを見つけることができず、やむなくペット禁止となったマンションでコーギーと暮らすことにした。
コーギーが大きな声で鳴いたり、ベランダに出てしまったりするたびに周囲の目が気になった。大切な家族と暮らしているだけなのに、いつも不安を抱えなければならない生活だった。

愛猫との約束が、人生を変えた
そんな暮らしが3年ほど続いた頃、コーギーの腎臓に病気が見つかった。治療のため動物病院に通うことが増えたが、ペット用のキャリーバッグでは周囲に知られてしまう。人目を避けるため、スーツケースにコーギーを入れて病院へ連れて行ったという。
「こんなはずじゃなかった。コーギーとのびのびと暮らしたかったのに」
猫と暮らせる住まいがないために、病気のコーギーにまで肩身の狭い思いをさせてしまう。そのつらさが、小阪さんの中で大きな決意へと変わっていった。
自分たちと同じように、猫が大好きなのに住まいの問題で苦労している人がいるはず。そんな人たちが、猫と安心して暮らせる場所をつくりたい。
小阪さんが思い描いたのは、猫と暮らす人たちのための専用マンションだった。仕事などで留守にする際も、希望があれば猫の食事やトイレの世話ができるような住まいを考えた。
「我慢しないで暮らせる快適なマンションを作るから、もう少し待っててね」
小阪さんはコーギーにそう語りかけ、夢の実現を目指した。
しかし、願いは届かなかった。コーギーの病状は悪化し、小阪さんの誕生日の2日後となる2月24日、静かに息を引き取った。
コーギーと一緒に新しいマンションで暮らす夢は、叶わなかった。
コーギーとの約束を、次の幸せへ
愛猫との別れを経験しても、小阪さんの思いは消えなかった。コーギーと交わした約束を、これから猫と暮らす人たちの幸せにつなげたいと考えた。
当初構想していた猫専用マンションの新築計画は見直すことになったが、その思いを形にするため、猫専門の不動産事業へと歩みを進めた。
ゴロゴロ不動産が目指すのは、単に猫と暮らせる物件を紹介することではない。猫の習性や安全性、飼い主の暮らしやすさまで考え、猫と人が共に安心して暮らせる住まいを提案することだ。
現在は猫と暮らせる賃貸物件の仲介を中心に、脱走防止対策や猫用家具、留守時のペットシッターなど、猫との暮らしを幅広く支えるサービスを展開している。
猫を迎えたいのに住まいが見つからない。複数の猫と一緒に暮らしたい。そんな悩みを抱える人たちが、住まいを理由に猫との生活を諦めなくて済むように。
一匹の猫との出会いから始まった小阪さんの挑戦は、コーギーへの変わらぬ思いとともに、今も続いている。

猫との住まいに関する相談は、公式サイトやLINEで受け付けている。














