三重県四日市市西坂部町の陶器製造販売を手掛ける合資会社水谷商店あおい製陶所の前に、一風変わった自動販売機が登場した。道路側から見て目を引くのは、側面と背面に大きく書かれた「従業員募集中」の文字と陶器の絵柄。聞けば、今後この自販機で萬古焼を販売するという。
求人と萬古焼をアピールするユニークな自販機
自販機を設置したのは、同社代表の水谷泰治さん(48)。萬古焼を扱う会社らしく、和の雰囲気が伝わる落ち着いた色合いに、土鍋や器が並ぶ棚などが描かれている。
実は以前、同じ場所に清涼飲料水メーカー・ダイドードリンコの自販機があった。しかし、飲料の値上げが続き、缶コーヒーなどが160~170円に。近所の人から「また高くなったね」と言われることもあった。値段を決めているのはダイドー側だったが、自分が値上げしているように思われるのが釈然としなかった水谷さん。今年2~3月ごろ、同自販機を撤去した。
しばらく自販機のない状態が続いたが、5月、リース会社から好みのラッピングができ、特定の飲料メーカーに縛られず、好きな商品を入れられる自販機の話が舞い込んだ。自販機がないと、従業員が飲み物を買うために会社から離れた所まで出なければならず不便でもあった。「じゃあ置こう」と、水谷さんはすぐに決めた。

また、水谷さんはハローワークにも求人を出しているが、仕事が忙しく、恒常的に人手が足りない。そこで「自販機でもアピールしよう」と、「従業員募集中」の文字を掲げることに。詳しい求人条件を載せるのではなく、自販機を目にした人に、会社が求人していることを知ってもらう糸口になればと考えた。
人気のご飯鍋をアウトレット価格で
8月半ばに設置した後は、手始めに安く仕入れた飲料を100円で販売しているが、水谷さんにはもう1つの思い付きがあった。「自社で作る萬古焼の『訳あり品』を直売する場にしたい」。
同社主力の人気製品で、「ねじれ」を施した意匠が特徴の「ねじれご飯鍋」と、きのこのようなフォルムが特徴の「きのこご飯鍋」は、本来なら7000円~1万2000円ほどする商品。当面はこの2種類の「訳あり品」を扱う。

焼成前の拭き残しで底の一部が黒っぽくなったものや、小さな傷があるものなど、言われなければ気づかないほどの「訳あり」で、使用には問題のない商品を、サイズごとに500円、1000円、1500円程度で9月半ばから販売する予定だ。
商品の写真と価格が表示されたボタンを押すと、サイズと価格の書かれたカード入りの小瓶が取出口に落ちる。購入者がそれを事務所に持って行き、実際の商品と交換する仕組みだ。「訳あり品というより、アウトレットと言った方が分かりやすいですよね」。
コロナ禍の危機感から生まれたヒット商品
新しいアイデアを次々と形にしていく水谷さん。その発想と実行の速さは、今回の自販機に限ったものではない。
「ねじれご飯鍋」も、その1つだ。2020年1月、新型コロナウイルスの感染拡大を予感させるニュースを見て、水谷さんは「これが広まったら飲食店が止まるな」と考えた。当時は業務用土鍋の製造が中心だったため、飲食店が止まれば自社の仕事も止まる。そこで、家庭でご飯を楽しめる商品を作ろうと、すぐに取り掛かった。数百万円をかけて型を作り、「この時勢に」と社内から反対されても製品化。結果、ねじれご飯鍋は主力商品の1つとなった。

「誰も作らないもの」に挑み続ける
一方で、同じ「誰もやらないこと」から生まれた「きのこご飯鍋」では、デザインのこだわり上、想定以上に製造に手間がかかり、利益率が低くなったという失敗も経験した。「よそがやらないのは、手間がかかるからなんだなっていうのが分かりました。それでも、誰も作らないものを手掛けたい」。
購入者の声を直接聞く機会はそう多くないが、「ばんこの里会館」などの売り場からは「デザインが斬新」「かっこいい」といった評価が届く。当初多かった男性客だけでなく、最近は女性にも人気だそうだ。
自販機での自社商品販売を始めることで、購入者が事務所を訪れる機会も増える。「実際に使う人の声を直接聞けるようになれば」と水谷さん。時流に合わせて思い付いたことを形にし、売り方も変えていく。
「僕は『できるか、できないか』ではなく、『やるか、やらないか』で、やらないっていう選択はないんです」と語る水谷さん。日々、新たな手法の開拓に挑んでいる。

















