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「じっとしていられず」四日市の畳店店主が熊本へ い草産地で見た地震被災地のリアル

2026 8/23
ニュース 総合
2026年8月23日
崩れた土壁などの災害ゴミを集積場に運ぶ作業をする石川さん
【災害ゴミを片付ける手伝いをする石川さん=熊本県八代市】

 熊本県を中心に大きな被害が出た7月28日夕方の地震を受け、三重県四日市市中部の石川畳店店主、石川淳二さん(52)は8月14、15の両日、熊本県八代市などの被災地を訪れた。畳の原料となるい草の産地として定期的に通ってきた八代の状況を確かめ、被害を受けた農家の片付けなどを手伝った。

 発災直後から現地の知人らと電話で連絡を取り、8月初旬には紙おむつなどの支援物資を熊本行きのトラックに託した。それでも「じっとしていられず」、お盆休みを利用して自ら現地へ向かった。

「洗濯物が干されていない」――肌で感じた非日常

 14日早朝に四日市を出発した石川さんは、中部国際空港から阿蘇くまもと空港へ飛び、レンタカーで午前11時には八代市内に入った。

 長年付き合いのあるい草の産地問屋の人と合流し、親しくしているい草農家へ駆けつけた。農家の男性は「2016年の熊本地震のときと違う揺れ方で、今回は『ドンッ』という衝撃で立っていられなかった」と振り返る。田んぼから駆け戻り、崩れたわが家を目にしたときのショックは計り知れなかったという。

 石川さんは問屋とともに農家を回り、傾いた家屋や壊れた農業用水路などの様子を確認して回った。

川沿いに倒壊した家屋
川になだれ込むように倒壊した家屋

 初日に最も強く違和感を覚えたのは、「晴天なのに、洗濯物が干されていない」景色だった。高い場所から俯瞰すると、ブルーシートで覆われた屋根や壊れた建物が目立つ一方、一見無事に見える家々も並んでいる。しかし、生活感が不自然に消えていることに気づいた。水が使えないことで、当たり前の日常が奪われている――石川さんが肌で実感した瞬間だった。

熊本県八代市のい草農家で、地震による被害を受けブルーシートで屋根を覆った住宅
ブルーシートで屋根を覆った住宅

「水問題」に直面しても歩みを止めない農家

 い草は例年7月に刈り取りを終え、8月には次の苗を育てる準備に入る。栽培の新たなスタートを切る大切な時期だが、球磨川からの農業用水路が損壊し、通水機能を失っていた。
 
 地下水をくみ上げて利用している農家もあれば、枝分かれした水路に溜まる浅い水をポンプで吸い上げてなんとか田んぼに入れているところもあった。生活排水などが混ざった水なので、い草の生育に良くないが、「田を枯らすわけにはいかない」と作業を続けていた。

 「農家は特に、今歩みを止めたらすべてが止まる。手を止めるわけにはいかない。水が来ないかもしれないという不安の中でもやることはやっていかなくてはいけない」。石川さんは夕方まで農家の生の声を聞いて回った。

地震で損壊し、通水できなくなった農業用水路
損壊し、通水機能を失った農業用水路

災害ゴミ運搬を手伝う

 翌15日は朝6時半、全世帯に備え付けられている防災ラジオのアナウンスで目が覚めた。午前中は前日に訪ねた農家で、崩れた土壁や壊れたコンクリートブロックを車に積み込み、臨時の災害ゴミ集積場となっている小学校の校庭へ運ぶ片付けを手伝った。

被災し使用不可能になった寝具がうず高く積まれた災害ゴミ集積場で両手に持ったゴミ袋を運ぶ石川さん
災害ゴミ集積場でゴミを運ぶ石川さん

 地震から2週間余りが経っていたが、ゴミを捨てるためには受付から1時間以上並ぶ必要があった。集積場には、被災した畳も運び込まれていた。

災害ゴミ集積場に運び込まれた被災した畳を前に立ち尽くす石川さん
災害ゴミ集積場に積まれていた畳

避難所で活躍する畳と高齢被災者の姿

 午後には、避難所となっている八代市立第四中学校を訪問した。石川畳店は、全国の有志畳店が連携して被災地に畳を届ける「5日で5000枚の約束プロジェクト」に参加している。同避難所に畳が搬入されたと知り、現場での活用状況を確かめたいと考えていた。

 体育館では、届けられた畳を使って、テレビを見るための8畳の共有スペースが設けられていた。段ボールベッドの上に畳を敷き、少しでも寝心地を良くする工夫もされていた。

避難所の体育館に設けられた畳の共有スペース
避難所に設置された畳の共有スペース
段ボールベッドの上に畳が敷かれている
段ボールベッドの上に畳が敷かれている

 避難所で出会った90代の夫婦は、地震の揺れで自宅の玄関ドアが飛んだために外へ逃げ出せたという。2人は、「みんなが優しくしてくれてありがたい」「エアコンも効いてありがたい」と何度も感謝を口にした。過酷な状況を受け入れ、周囲に感謝する姿に石川さんは深く感じ入った。

 い草問屋の人も避難所に同行していたが、自身も被災しつつ親戚宅に身を寄せることができた彼は、避難所訪問が初めてだったという。炊き出しを受けていい立場ではあるが、避難所生活を余儀なくされているわけではないので、受け取ったことはないという。石川さんは、同じ被災者間でも、遠慮などあって立場が違うと踏み込めず理解が進みづらいのではないかと感じた。

活断層が通る地域の激しい被害状況

 倒壊した瓦屋根の古い家屋や神社仏閣、激しく曲がった線路を目にしながら、震源地に近い宇城市小川町地区にも向かった。

地震により倒壊した家屋
倒壊した家屋
地震で傾いた神社の門
傾斜した神社の門
地震で大きく曲がったJR九州鹿児島本線の線路
激しく曲がったJR九州鹿児島本線(有佐~千丁駅間)の線路

 熊本県中部から八代市を経て八代海へ延びる日奈久断層帯沿いのこの地域では、家屋の倒壊や路面の亀裂などの被害が目立っていた。地面には1メートル近い段差ができている場所もあり、数キロにわたって亀裂が走っていた。

 「地面が大きな力でひねられて壊されたように感じた。無事そうな建物の下の地面にも、亀裂があった」。

地震で地面に生じた大きな亀裂と段差
活断層とみられる激しい亀裂

「日本はいい国や」

 八代市社会福祉協議会が運営する災害ボランティアセンターにも足を運んだ。

 ボランティアの募集や振り分け、取りまとめを担う運営側も被災しており、専門的な経験があるわけではない中で対応に追われていたという。平時は顔見知りばかりの地域でも、被災後は見知らぬ人を見かけることが増え、不安もあると聞いた。

 それでも、センター周辺に全国から集まった救援物資を運ぶトラックが並ぶのを見て、石川さんは「日本はいい国や」と思った。

八代市の災害ボランティアセンター周辺に並ぶ救援物資輸送のトラック
救援物資輸送中のトラックが並んでいた

「水があればなんとかなる」水の大切さを実感 

 地下水を利用した役場隣接の風呂は、地震から10日目に利用できるようになった。石川さんが訪れた際には十分な水量が確保されていたが、周囲の人たちが「昨日は調子が悪かったんだよ」と教えてくれた。「お風呂に入るのが楽しい」。笑顔で話す人たちの姿を見て、石川さんは「お風呂は大事だな、水は大事だな」と実感したという。

 八代平野や八代海を望む龍峯山の登山口には、「無料生活用水」として水を入れたバケツが置かれていた。ほかにも、地域の人たちが「ここに行けば水が使える」と教え合う場所があった。

「水があればなんとかなる。本当にありがたい」。

 水が使えない生活の大変さや、水を確保するための工夫を目にしてきた石川さん自身も、いつしか水への感謝の気持ちが大きくなっていたという。

龍峯山の登山口周辺に置かれた無料生活用水のバケツ
登山口周辺の集落に用意された無料生活用水のバケツ

被災地のリアルを伝えたい

 「圧倒的な自然の力を前に何度も涙があふれました。けれど同時に、前を向いて生きようとする人間の力強さにも心を揺さぶられました」。四日市に帰った石川さんは今回の熊本行きをそう振り返る。

 被災者の気持ちを「途方に暮れた日もあったと思う」と推し量る石川さん。「粛々と家の片づけをしている人をいっぱい見た。それこそ途方もないような作業を淡々と。でも彼らの語る言葉は未来を向いているんです」。それは、「明日になれば」「月が変わる頃には」「ちょっと落ち着いてきたら」「寒くなるまでには」といった先を見据えた言葉だった。

 石川さんは、「東海圏にいては伝わりづらい被災地のリアルな現状を、地元四日市や周りの人たちに知ってもらいたい」と話す。

畳にかかわる者として

 20年前に約5000軒あった八代市周辺のい草農家は、現在約200軒にまで減っている。生産者と共に上質ない草を追い求めてきた石川さんにとって、今回目にした被害は、仕事を通じてつながってきた人たちの暮らしだけでなく、産地そのものの問題でもあった。

 「畳と熊本の産地は共同体」。石川さんは、今後も自分にできる形で被災地と関わり、い草産地の復興を支えていきたいと話している。

地下水設備のある農家の協力を受け、数軒の農家が共同でい草の苗作りを行う水田
地下水設備のある農家の協力を受け、数軒の農家が共同でい草の苗作りを行う水田

※掲載写真はすべて石川さん提供

ニュース 総合
ボランティア 災害 農家 避難所 熊本地震
崩れた土壁などの災害ゴミを集積場に運ぶ作業をする石川さん

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