新年度が始まり、三重県立総合医療センターも新任医師、看護師、技師などフレッシュな67人が加わっての新体制になりました。患者さまのため、地域のため、センターのスタッフ全員がそれぞれの部署で力を尽くします。新年度は眼科に新しい医師を迎え、難しい手術もできるよう機材も整えました。2024年春に最新機器を導入した放射線治療棟や新しい手術室も効果を上げており、引き続き、治療の幅が広がります。
これからの病院の運営も含め、新保秀人理事長兼病院長がお話しします。
眼科に新しい医師、機材もあらたに整備
これまでの担当医師は2025年度で定年を迎えました。そのため、その後の眼科をどうすべきか、2年ほど前から大学や地域の意見も聞きながら検討してきました。実際のところ、眼科は非常に奥が深く、検査などに使う光学的機器など、続ける以上は、それなりの投資も必要でした。やる以上は、覚悟もないとできません。
検討の結果、この地域で私たちが眼科の役割を果たすことができ、一定の入院患者を迎える状況になりそうだとの見通しもできました。そこで、20種近くの新しい機器を購入して、経験豊富な医師をあらたに迎えられることになりました。これによって、合併症を持つ人に対する難しい手術にも対応できるようになり、地域での一定の役割を果たしていけると考えています。
非常に専門的な手術は大学が行い、最近は白内障治療に民間医院も意欲的です。その中で、当院がどんな役割を果たしていくかです。例えば高齢者の中には糖尿病もあって目も心配という方もみえる。眼科は多くの診療科との関係も深い部署ですので、治療や手術などで私たち専門分野での役割を果たしていけるだろうと考えています。


YC-200
放射線治療の効果あがる
一昨年春に施設を一新した放射線治療の体制は、これまで手が届かなかった臓器の治療や、痛みを抑える緩和治療に効果を発揮しています。放射線の治療件数は2~3年前は年間3,000件ほどだったのですが、2025年度は4,000件を超えました。かなりの増え方だと思います。
最新の治療機器なので、これまでよりもできることが増え、期待されることもあります。また、がん治療に対する放射線治療の役割が大きくなっています。
米国などに比べ、日本ではがんに対する放射線治療の役割はまだ小さいのですが、欧米のように高くなっていくだろうと考えられています。数字を出すのは難しいのですが、日本でも、がん患者さまの中での放射線治療の寄与率は徐々に上がっています。放射線治療はとても大事なので、この流れが定着すればと思っています。
こうした流れの中で、これまでの切開手術に比べ、乳がんの治療などからだへの負担を少なくできるようになった治療も始まりました。
ラジオ波焼灼療法を開始
これは、ラジオ波焼灼療法と呼ばれるのですが、早期の乳がんを切らずに治療しようというものです。乳腺外科で、昨年後半から始まり、すでに数件の治療が行われています。
がんの場合、まずは切開してがんを取ることが長く第一の選択肢になってきました。しかし、最近は、切らない選択を望まれる患者さまも増えてきました。この治療法では、乳がんの中に細い針状の電極を刺して電磁波の一種、ラジオ波の電流を流し、発生する熱でがんを死滅させます。
精密さを求められる手術ですが、かなりの効果があり、年齢の高い人にもできるので、治療の選択肢が広がりました。乳がんの治療は抗がん剤で始めて手術をするなど、様々な選択があり、そのひとつとして効果を上げてくれるものと期待しています。

増える手術件数に対応
あらためて手術についてお話しすると、最近は、手術件数、内視鏡手術の件数ともに伸びが続き、特に、当院の特徴として内視鏡手術の割合が高くなってきています。全身麻酔でなければ、ここ数年は3,000件くらいで、毎年100件ずつ増えているような状態でした。一方で、全国的には、今、手術をする病院は減っています。経営の課題や人口そのものも減っていることもあって病院が減っているのですが、その減り方以上に手術をしている病院は減っています。
そうなると、手術をしている病院に患者さまが集まるのは必然で、その傾向が見られたため、放射線治療棟と合わせて陰圧室を含め手術室を増やしました。麻酔科の医師の配置状況が県内ではよかったこともあって踏み切ることができたと思います。
その結果、やはり、手術の件数そのものが増えており、やっておいてよかったと思えるようになっていくだろうと見ています。全身麻酔の手術件数は年間1,800件ほどだったのが、2,000件台に乗ってきています。もう少し手術室にテコ入れをしようとも考えており、効果が出てくるといいと思っています。

和痛分娩も申し込み件数は増える
前年度に導入した産婦人科の「和痛分娩」も、最初は、年間10件あればいいと思っていましたが、申し込みは増えています。痛みが軽くなることでお産が怖くなくなったりするメリットはありますが、痛みを取る体制をつくらないといけないので、安全なお産をしてもらうには、それなりの準備が必要になります。当院では麻酔科の全面的な協力が得られているため、妊婦さんを支援する態勢ができました。和痛分娩を始めてからは、明らかにこちらの希望者が多くなっています。
第3期中期計画は最後の年
私が当院に赴任したのは第2期計画の途中でした。中期計画は、この病院をどうしていくかを決めるもので、第3期の五カ年計画をつくる時に、将来への投資をと考え、放射線治療棟などを盛り込みました。今年は、さっそく2027年度からの第4期の計画づくりを進める必要があり、私の頭の中にはいろいろとやりたいことが渦巻いています。予算もあることでもあり、収支のバランスを考えながらまとめていくことになります。
中期計画では、攻めた目標値を挙げてきたので、現時点ですべての項目が目標を上回ったというわけではありません。全国的にも、患者の動向は見通し通りに行っていない面があります。病気があるのに、あまり、医療を受けていないように見えるのです。
60歳の人に比べれば、75歳の人の方が多く合併症をもっていて、高齢化が進むことで病院の患者数は増えていくはずだったのですが、2013年ごろの患者数を1とすると、予定なら今ごろは1.1倍以上の患者数になっているはずなのに、実際は1にもなっていない。過去の予測通りなら、高齢者が増えて病院の患者さも増えていたはずなのに、増えていない。コロナからの回復がまだ完全になっていないという見方もありますが、コロナの前から、実は予測通りにはなっていなかったように思えます。
こうした状態が病院にどんな影響を与えるか、見ていかないといけないと思います。明快な原因は分析されていないと思いますが、まだ60代なのに、受診をやめてしまうというのはよろしくない状態だと思いますので、そこは意識の喚起ができたらいいと思っています。
接遇はよいが引き続きの努力を
このところ、よい評価をいただいている当院の接遇は、数字で詳しく表せないところもあるのですが、私自身もうまくいっていると思います。患者さのアンケートなどを見て、同規模の病院で比べても、うまくいっていると思っています。
ただ、目安箱にある患者さまの意見を見てみると、今も、時には厳しい意見があります。たまたま意識のすれ違いがあったにせよ、接遇の基本を忘れた対応をしてしまうと、必ず患者さまから指摘をいただくことになります。そこは修正していくことが必要だと思わないといけません。
全体の90の接遇がよくても、10が悪ければ、その10の持つ意味は非常に大きいものになります。当院の接遇は決して悪くはないと思っていますが、それでも、90を95に高めるなど、ご批判の意見がさらに少なくなるよう、努力していきます。
ピンチだからこそ改革の好機
最後に、ひとつ、言わなければならないことがあります。それは、一般的に病院の環境が今はよくないということです。全国津々浦々、病院は赤字ばかりです。
そんなピンチの中で、「どうするの?」と考えた時、のほほんとしている時、人は改革をしようとか考えない。でも、ピンチになれば変わらなければだめだと考える。それは、改革を実行するチャンスだと思います。
そのひとつが、「効率化」ではないかと思います。人手も不足していく時代ですから、今までと同じことをしていてはいけない。例えば、電話でしていた予約を、ウェブでできるようにした。今は電話をしなくていい時間が増えており、やがて、その人には別の仕事をしてもらうというように、何かをしないと現状は変わらないと思います。
世界で最初に医学教育を考えたのは米国のハーバード大学ですが、世界トップのこの大学が「変わらぬ組織に未来はない」といった意味のことを言っています。「変わりたくない」と考えるいい人材を失ってもいますが、一方で、いろんなことを変えて、今があります。
今年は研修医10人、看護師31人、2年目の研修医が当院に残ってくれたことを含んだ数字ですが、全部で67人が4月から一緒に働いてくれます。こちらも努力していないと若い人は来てくれないので、これだけ来てくれたことは、評価できることだと思っています。
理事長・病院長プロフィール

1979年三重大医学部卒業。同大附属病院で研鑽し、1989年にリサーチフェローとして米国ハーバード大に留学。帰国後、三重大附属病院で教授などを経て2005年に副院長。2015年から三重大副学長、三重県立総合医療センター理事を務め、2018年から現職。









